第2章 内気な女優
「あの、私はアイドルのことも、二階堂さんのことは何にもわからないけど、でも、二階堂さんの演技にはいつも引っ張られないように必死で、えっと」
いつもなら笑ったりして反応してくれる二階堂さんが、今はただじっと私を見ている。
ちょっぴり自分を見失っている、そんな目で。
「でも、ありきたりなことしか言えないですけど、私はそのままの二階堂さんで良いとお思います。だって、二階堂さんって、とってもすごい人だから」
こんなことしか言えないけれども、少しでも伝わってたらいいな。
なんて思っていると、湊川さんの声が聞こえた。
「そろそろ休憩終わりですかね。私、先に戻ってますね」
普段の自分だったらあまりしないことどうに、ドギマギしつつすぐにその場を離れた。
だって、あんまり顔を合わせられないんだもん。
「いたいた。全く、どこに行ってたのよ、もう休憩終わるわよ」
「えへ、ごめんなさい」
私の後に続いて戻ってきた二階堂さんは、さっきの暗い表情とは違い少しスッキリした顔になっていた。と思う。
少なくとも、次のテイクではさっきまでのNGとは打って変わって、いつもの二階堂さんの演技に戻っていた。
現場の雰囲気もちょっと軽くなって、そのまま予定通り終わることができた。
帰りは港川さんの車に乗って、家まで送ってもらう。
服を着替えて、車に乗りこんだ。
発進するタイミングで、携帯に通知が入る音がしてそのまま確認すると、撮影が始まってから一切連絡が取れていなかった龍之介さんからのものだった。
元気にしているかの確認が入ってから、仕事で何をやっているのかのお互いの近況報告。
それだけでも、私の気分は上がる。
今日は、ライブのレッスンもあったみたいで、九条さんと八乙女さんの衝突があったらしい。いつものことだけどねと、締めくくられているこの日常が久しぶりで胸がキュッとなる。
「会いたいなぁ」
思わず声に出てしまう本音。
仕事柄、頻繁に会えないなんてよくわかっていることだし、こういったことが初めてなわけじゃないけれども、一向に慣れる気配がない。
「そういえば、この撮影が終わってからライブに誘われてるんでしょ」
「え、どうして知ってるの?」
撮影でバタバタしていて、まだ伝えていなかったのに…。