第1章 内気な子
「ねぇ、あんた何かしゃべったら?」
「た、環君!?柏葉さんになんて口をきくんだい!?」
「だってなんも喋んねーじゃん!挨拶に来てるのに!」
あぁ、水色の人と紫の衣装を着た人が口論を始めてしまった。
周りの人も止めに入ってしまって、ゴタゴタしている。
スタッフの人もちらちらとこっちを見ているのが分かる。
このままじゃダメだよね。
「あ、あのっ…!」
声を出したはずなのに、かすれた声しか出なくてビックリ。
彼らの声にかき消されてしまった。
一応私の方がセンパイなのに、なんでちゃんとできないんだろう。
情けなくなってしまう。
どうしたらいいのか分からず、下を向いてしまった時だった。
「あれ?何してるの?」
廊下の向こうからやってきたのは、湊川さんだった。
最初は何やってんだこいつみたいな顔をしていた湊川さんだけれども、私のオドオドしている様子と、アイドリッシュセブンの顔を見てなんとなく予想がついたようだった。
「はぁ、仕方ないわね。カメラが回っていないとこうなんだから」
少しあきれた様子ともう慣れたと言いたげに、湊川さんはアイドリッシュセブンと私の間に立った。
「初めまして、私柏葉ななかのマネージャーをしています。湊川です。」
丁寧にお辞儀をする湊川さんに、アイドリッシュセブンさんもこちらこそという感じでそれぞれが頭を下げた。
「大人数で廊下を占拠するわけにもいかないのでよろしければ、楽屋の中へどうぞ。柏葉一人に対して、差し入れが多いので」
「えっ!?」
とてもいい笑顔をして、ドアを開けて待っている。
突然言われて固まっている私の腕を引いて楽屋の中に戻され、皆さん恐る恐る楽屋の中に入ってくる。
とりあえず、落ち着こうとソファに座るも美形が周りを座っていることもあり顔を上げることができない。
そのまま静かな空気が流れていた。
どうすればいいのか分からないというような顔でいる彼らに申し訳ない気持ちがいっぱいになってくる。
湊川さん、助けて…
その思いを込めて視線を向けると、再びため息をつかれた。
そんなにつかなくても。