第1章 内気な子
ドラマの撮影中は頻繁に連絡は取れなくなるから、龍之介さんが離れてしまわないかいつも心配になってしまう。
だって、周りの人たちは綺麗だし。トリガーは大人気のグループだから、エロエロビーストだなんて言われている龍之介さんも、本当はとってもいい人だから女の人が黙っていない。
あぁ、せっかく撮影後の楽しみができたのに。
自分でモチベーションを下げてしまった。
「ななかちゃん」
呼ばれたと思えば、龍之介さんの顔がほぼ真横にあった。
と思えば、右耳の裏に柔らかい感触があった。
「ひゃわっ」
くすぐったい感触を我慢して、体に力が入る。
しばらくすると、離れていった。
「あの…」
「また連絡するね」
ちょっと顔を赤らめて、そのまま帰ってしまった。
触られた耳だけ以上に熱を持ってる。
鏡で見ようにも見れないので、その部分だけ写真を撮ってみるとほんのりと赤いマークがつけられていた。
いわゆるキスマーク。
つけられるのは初めてで、どうしたらいいかわからない。
と、とりあえずこの場所ならそんなに見えないのかな、どうなんだろ。
ほぅっと息を吐き出す。
心臓がバクバクと破裂しそうな勢いで動いていて、苦しい。
「全部、初めてなんですよ」
ちょっとした抗議の意味も込めて、ぷんぷんと怒っているパンダのスタンプをラビチャに送っておいた。
「柏葉さん、現場に入られまーす!」
「よ、よろしくお願いします」
スタッフさんたちの間をぬって、監督さんのところまで行く。
こうしてお会いするのは初めてだから、緊張もいいところ。
側には湊川さんがいるにしても、自分からいかなくては…!
「お、おはようございます。今日はよろしくお願いしましゅ!」
か、噛んだ…。
あぁ、さようなら。私の第一印象。
ずっと一緒に仕事をしたい監督さんだからって、意気込んだのがダメだったかな?
恥ずかしくて、挨拶と共にさげた頭を上げることができない。
「あはは、よろしくねななかちゃん。本当に人見知りなんだね」
「すみません、監督。カメラが回るとまた違うんですけど」
「うんうん、そこも含めて大人気女優さんだからね。楽しみにしてるよ〜」
そう言って、スタッフさんに呼ばれてどこかに行ってしまった。