第1章 内気な子
「俺は嬉しいよ」
予想外の言葉に思わず顔をあげる。
「え、どうして…?」
「だってそれだけ俺のことを好きだってことでしょ」
そう言われてまた一気に顔が暑くなる。
今日で何回感情のジェットコースターを味わえば良いんだろう。
私の心臓、今日だけで壊れちゃうんじゃないかな。
それだけ私の心は龍之介さんに囚われてしまっている。
まだしばらくは離れたくなくて、大人しく腕の中に収まっている。
嫉妬心剥き出しだった顔はもう収まったかな?
龍之介さんは嬉しいとは言ってくれたけれども、乙女心としては見せたくないし、見られたくはない。
その心情を察してくれたのかはわからないけれども、そのまま離れることもなく降ろしている髪を耳にかけて、そのまま頭を撫でてくれる。
うぅ、本当に。そういうところです。
こんなに甘やかされてしまったら、撮影に行くのが嫌になってしまう。
「そういえば、今度のライブが決まったんだ。もし予定が合いそうなら是非来てほしいな」
そう言って、カバンから出されたのはライブのチケット。
見ると、関係者席のものだった。
「え、いただいていいんですか?」
「もちろん、今回は予定が合えばいいけど」
そう、以前もライブに招待してもらったことはあるけど、その度に撮影やロケが被ってしまって、まだライブというものを体感したことがなかった。
あまりにも被ってしまうから、申し訳なくて。
行きたいけれども、行ける保証なんてなかったから今まで口に出すのを控えていた。
「ありがとうございます!とっても嬉しいです」
もらったチケットを胸に寄せて、おまじないをかけておく。
次こそは、かっこいい龍之介さんを見れますように。
「うん、俺も楽しみにしてるね」
日程はちょうどドラマが終わってからのものだから、湊川さんに頼めばなんとかなるかもしれない。
ついさっきまでは撮影に行きたくないと思っていたのに、楽しみができると早く終わってほしいとさえ思ってしまう。
欲に忠実だなって自分でも笑ってしまう。
「大変だろうけど、ドラマの撮影頑張ってね」
「はい、本当にありがとうございます」
気がつけば、真上にあった太陽はすっかり沈んでしまった。
別れの時間が近づいてきて、名残惜しくなってしまう。