第1章 内気な子
「うん、そっか。じゃあ慣れてくれるようにたくさんキスしなくちゃね」
今信じられない言葉が聞こえた気がした。
「え、たくさん?」
「うん、もっとななかちゃんに触れたいし。頑張ろうね」
「は、はいぃ」
いつもと変わらないとても優しい笑顔なのに、拒否権は与えてくれないらしい。
でもこういうちょっと強引なところもかっこいいってなる私はきっともう末期なんだろうな。
「なんだかこうやってゆっくりとななかちゃんと過ごす時間のがなかったから、今日は本当にいい日だね」
「わ、私もそうです。龍之介さんと過ごせてとても嬉しいです」
これは紛れもない私の気持ち。お互いありがたいことに仕事がたくさん入っている反面、こうやって過ごせることは多くない。
ラボチャで数日会話できればいい方。
どうしても仕事で会うと他の人の目もあるし、あまりこういった風に甘える事もできないけれども今だけは。
結局龍之介さんから離れる事もせずに、じっとくっついているとつきっぱなしになっていたテレビから突然龍之介さんの声が聞こえた。
その声に反応してしまって、パッとテレビの方に顔を向ける。
抱かれたい男NO2の称号を持っている龍之介さんはセクシーな姿をしている事もしばしば。
けれども今流れているえいぞはどうもいつもと少し雰囲気が違った。
普段なら1人で映っているけれども、今回は女性と2人で。それもベッドに押し倒している。
その瞬間にピシッと自分の体が固まってしまったのがわかった。
こういうシーンがあるのはキャラ的に仕方のない事だとは若手いてもいつも心臓が嫌な音を立てる。
あぁ、自分のこういうところが本当に嫌だと常に感じてしまう。
普段自分はおどおどしてはっきりしない性格をしているのに、こういう時だけはっきりさせる自分に。
「ななかちゃん」
片手で私をだきしめ右手で私の手を握ってくれる。
「嫉妬してくれてるの?」
「やだ、見ないでください」
絶対に嫌な顔をしてる自覚がある。
こういったときに限って感情を隠す事ができない、せっかくいい空気になっていたのに一気に崩してしまった罪悪感。
ネガティブ思考に見事にハマってしまった。