第1章 内気な子
「天、こんなところにいたのか」
「お疲れ様、二人で何してるの?」
昨日の今日だけれども会えたという喜び。
さりげなく龍之介さんは私のそばまで来てくれた。
「別に、世間話をしていただけだよ」
さっきまで笑顔だった九条さん、いつも通りのすまし顔に戻ってしまい、ツンとした態度に。
その態度を好まない八乙女さんは、そのまま突っかかってしまうこともしばしば。
最初は止めに入っていた龍之介さんも慣れてしまったのか、最近はよっぽどのことがない限り見守ることに徹している。
「今日は皆さん事務所にいたんですね」
二人がプチ口論をしている間に私は龍之介さんに話しかける。
「僕たちは今日社長に呼ばれてね、ついでにこの後ここで雑誌の取材があるんだ」
座っていた私の目線に合わせるように、龍之介さんは膝たちかがんでくれ、他の人からは見えないようにそっと私の手をつないでくれる。
こういったしぐさが私の心臓に悪いということをそろそろ知ってほしい。
けれどもそうとは知らない龍之介さんは、手をするっと組み替えていわゆる恋人つなぎに変更した。
さすがにこれはやりすぎ!と思い離れようとすると、握りしめてくる力が強くなった。
これにはさすがに諦め。そもそも龍之介さんのスキンシップが好きな私にとって、この行動は愚問かと自分の中で解決してしまった。
「雑誌が出たら買いますね」
「ありがとう、頑張ってくるよ。その手に持っているものは次のドラマの台本?」
私の手に持っていたものが気になったらしい、のぞき込んでくるもんだから必然的に顔が近くなってしまう。
「は、はい!そうです…」
今度は顔の近さに私の心臓は足早に動いている。
ドクドクなりすぎて胸が苦しいし、少し酸欠状態のような感覚に襲われる。
顔が近いよ~
「顔、赤いよ?」
ワザとであろうそのセリフは、普段からは想像できない少し悪い顔で言われてしまった。
「ううっ…」
これ以上どう反応したらいいのかわからずに、顔も見れなくなってしまった私はそのまま下を向いて少しの抵抗を見せる。
「おい龍、ななかが困ってるだろ」
「ほんと、龍って柏葉さんに対しては性格が少し変わるよね」
いつの間にかプチ口論が終わっていたようで、八乙女さんたちは私たちの方を呆れたようにみていた。