第1章 内気な子
事務所においてあるソファに腰かけてパラパラとページをめくっていくと、昨日お会いしたアイドリッシュセブンの二階堂さんの名前が記載されていた。
俳優もしていたんだと思いながら自分のセリフを読み込んでいく。
「お疲れ様です」
声をかけられたので顔をあげるとそこには九条さんがいた。
「お、お疲れ様です!」
座ったままだと不味い!と反射的に思って勢い良く立ち上がる。
九条さん、久しぶりにお会いしたなぁなんて思いながら顔をじっと見てしまう。それを不審に思ったのか、少し顔を歪められてしまった。
「あ、すみません。じろじろと見てしまって…。あの、お久ぶりですね」
「そうですね」
そういいながら九条さんは立ち上がっている私の隣にきてソファに座る。
「え?」
予想外の行動に声が漏れ出た。
見下ろすわけにもいかないので座るしかないけれども、かといて隣に座るのはどうなんだろう?
でもあからさまに別のところに座るのもよくないよね…?
どの行動が正解なのかわからないけれども、とりあえずそっと九条さんの隣に座る。
「それは今度のドラマの台本ですか?」
「あ、そうです。私のあこがれだった監督さんから直々にオファーをいただいて」
「なるほど」
そのまま会話がなくなってしまう。
久しぶりに会うから何を話していいのかわからない…。
「この間、渋谷の方に新しドーナツ屋さんができていたんです」
「ドーナツ屋さん?」
「はい、おいしかったので今度差し入れに持ってきますね」
巷で言われている天使スマイルをこちらに向けてくれた。
さすが現代の天使、お顔が整っていらっしゃる。
まぶしいその笑顔につられて私の緊張もほぐれてきたころだった。
遠くから話し声が聞こ得てくる。
何を話しているのかはわからないけれども、声が近くなってきていることから誰かがこっちに向かってきている。
そっと耳を澄ますと、何度も聞いたあの優しい声が近くなってきていると理解した瞬間、私はその方向に顔を向ける。
予想通りというか、龍之介さんと八乙女さんがこちらに向かって歩いてきていた。向こうも私たちがいることに気が付いたみたいで、龍之介さんに至っては手を振ってくれた。
嬉しさに私も手を振り返す。