第38章 利休の匣〜2026信長誕生祭〜
独占欲を露わにするような言葉とともに、朱に染まった頬をするりと撫でられる。
「熱いな」
「だ、誰のせいだと…」
「着てくれぬのか?」
「っ……」
甘く低い声で乞うように囁かれて、朱里はぎゅっと唇を噛む。
(そんな風に言われると…でも、こんなの…恥ずかし過ぎる)
他の誰に見られるわけではなく、信長にだけ…と言われてもやはり恥ずかしいものは恥ずかしい。
「やっぱり、こんなの着られるわけ…」
「誕生日の祝いだ。今日ぐらいは、自ら願いを所望しても構わんだろう?」
「……ずるいです、信長様」
誕生日じゃなくても、信長様が望めば何だって叶うというのに、そんな風に言うのはずるい。
僅かに口を尖らせて恨めしそうに言う朱里に対して、信長は愉快そうに喉を鳴らす。
「今更だな」
「っ…そ、そもそも、これは着物の下に着るものであって…ひ、人に見せるものではないかと…」
「他の者には見せん。見るのは俺だけだ」
「そういうことじゃなくて…!」
「貴様が俺のためだけに羞じらう姿を見れば、俺がどれほど満たされるか…知っているだろう?」
独占欲を隠そうともしない言葉に胸の奥がじんわりと甘く痺れる。
信長に求められることが、嬉しい。
天下人として、この世の全て、望むものは何でも力で掴み取れる人なのに、時折こうして自分にだけ甘さを見せる。
自分だけを真っ直ぐに見てくれるその瞳にはどうしようもなく弱くて、無理なお願いも最後は聞いてしまうのだ。
「……本当に、信長様にだけ、ですよ」
観念したように小さく呟けば、信長の口元が満足げに緩む。
「当然だ」
即答され、その傲岸さに思わず吹き出しそうになる。
けれど次の瞬間、そっと腰を引き寄せられ、至近距離で甘く囁かれた。
「早く着替えてこい、朱里」
「……っ」
「待っている」
期待を滲ませた甘やかな声に背中を押され、朱里は真っ赤な顔をしたまま箱を抱えて衝立の向こうへと向かう。
が、衝立の影へ身を隠し、信長の期待に満ちた熱い視線から逃れられたと思った途端、力が抜けたかのようにその場にへたり込んでしまった。
(ど、どうしよう…こんなの、やっぱり無理っ…!)