第38章 利休の匣〜2026信長誕生祭〜
「如何した?」
「は、恥ずかしくて…あんなもの、人に見られたかと思うと…」
「何を恥ずべきことがある?貴様が俺に愛された証だ」
しれっと言い切った信長は、朱里の髪を一筋掬い取るとちゅっと口付けを落とす。甘やかすように頭を撫でられて、それ以上言葉を返すことができなくなる。
「っ…次は、自分で洗いますから…」
ーちゅっ…
諦めたように小さく溜め息を吐くと、今度は唇に口付けられる。
「の、信長様?」
「そんな顔をするな。また抱きたくなる」
「っ……」
うなじに残る赤い吸い跡を舌先でなぞると、朱里の身体がぴくりと震える。ふふ…と小さく笑う信長の吐息が首筋にかかった。
「次か…それは重畳」
「……?」
「あれをまた着てくれるということだろう?楽しみにしておる」
「なっ…!?」
楽しみにしているという言葉どおり、期待に顔を輝かせる信長を見てしまえば、それ以上否定もできなくなる。
(恥ずかしいけど、信長様が喜んでくれるのならまた…)
そう思った途端、頬が更に熱を帯びた。
「顔が赤いぞ」
「だ、誰のせいだと……」
朱里が恨めしそうに見上げると、信長は愉快そうに口元を緩めた。
「知らんな」
「意地悪っ…」
拗ねたように呟けば、頭上でくくっと低い笑い声が聞こえた。
やがて部屋の外からは、城が目覚め始める気配が聞こえてくる。
束の間の静かな時間が過ぎ、家臣達が動き出す慌ただしい時間が訪れようとしていた。
だが、信長は朱里の身体を引き寄せ、その肩を抱く。
「もう少しだけ、このままでおれ」
低く落ち着いた声は命令のようでいて、どこか甘い願いにも聞こえる。
「……はい」
朱里はそっと信長の肩に凭れる。
障子から射す柔らかな朝日が二人を優しく包み込んでいた。
二人だけの静かな時間は、忙しい日々の中で、何よりも尊く掛け替えのないものだった。
信長は朱里の髪をゆったりと撫でながら、不意に呟く。
「来年も、その先も……俺の隣におれ」
不意に告げられたその言葉に、胸がじんっと熱くなる。
朱里は微笑みながら、信長の胸元にそっと手を重ねた。
「はい。来年もその先も…ずっと、お傍にいます」
朝の光の中で交わした約束は、二人だけの秘め事で、今日もまた変わらぬ一日が始まろうとしていた。