第2章 始まりの日
(あたし…死んだのかな…。
体の痛みも、苦しいところもない…。
ここは…天国なの?)
「い……ろ」
(え…?)
「おい…やく…きろ…」
(誰の声…?)
「おい…早く起きろよ」
誰かの声がする。
どこか聞き覚えのある懐かしい、低くて優しい声。
すっと瞼を上げると、目の前に広がったのは真っ白な世界。
地平線が遠い、何もない真っ白な世界。
「おう、やっと目ェ覚めたか」
声のする方を見れば、銀髪の男の人が座り込んでこちらに微笑んでいた。
(…あれ…あたしはこの人を、知ってる…?)
ぼんやりと男の人を見つめていると、男の人は悠華の上半身を軽々と起こし、そしてしっかりと抱きしめた。
まるで、悠華の存在を確認するかように。
「やっと…会えた…」
嬉しそうにそう言って擦り寄る男の人の突然の行動に何もできず、悠華はただ抱きしめられたまま当分は大人しくしていた。
…しかし、いつまで経っても放してくれる気配がない。
「あ、あの…もういいですか…?」
いつまでもイケメンに抱きしめられているのも正直かなり恥ずかしい。
だが、男の人は悠華のそんな言葉に不満げな顔をして。
「なんだよ、久しぶりの感触味わってるってのに…お前抱きしめてるとこう…落ち着くんだよ……もう少しだけ、このままで」
見た目では自分よりも幾つか年上に見える男の人の、駄々っ子のような甘えっぷりに、悠華は為すすべもなくされるがままでいるしかなかった。
そうこうして戯れていれば、ぼんやりしていた頭が冴えてきて、いろいろなことを考え始めていく。
ここは何処なのだろう?
あたしは死んだのだろうか?
死んだとすれば、ここは死後の世界?
懐かしく感じるこの人は一体誰?
分からないことだらけの状況に唸り出した悠華に、抱きしめ続けていた男の人は心情を察したのか、腕を緩めて話し始めた。
.