第2章 始まりの日
鬼道を受けた虚が煙の中からゆらりと現れ、悠華は愕然とする。
「倒せて、ない…ッ!?」
虚は直撃は免れたものの片腕が落ち、傷口からは夥しい量の血が流れ出していて。
そんな凄惨な姿でも尚、虚は悠華を喰らおうと不気味に笑いこちらへ向かってくる。
恐怖と焦りで竦んだ脚は、全く動かない。
(体が……逃げなきゃなのに…ッ)
硬直してしまった体は、宙へ弾かれるように殴り飛ばされる。
「ッ…ったぁ」
受け身をとることも間に合わず、殴られた悠華は、動くことも出来ずにただ冷たい地面に倒れ伏して。
ズシン、と重たい音を立ててこちらへ向かってくる虚を、痛みに歪んだ顔で必死に睨みつけることしか出来なかった。
仮面がニヤァと恐ろしく笑い、大きく口を開けて悠華に迫る。
(…躱せないッ…!)
痛みを覚悟し目を強く瞑ったとき、悠華の中で声が響いた。
『―ちっ…しょうがねえな』
「え…?」
声が聞こえた次の瞬間、悠華の真横を影が通り過ぎていった。
正確には、真横を通り過ぎたのではない。
突然悠華の後ろの方から現れ、虚に向かっていったのだ。
その人は悠華と虚の間に遮るように飛び込むと、腰の刀を抜いたと思えば、向かってくる虚をいともあっさりと斬り捨てた。
「え…?」
消えていく虚を見ながら、その人は刀を鞘に静かに納めた。
「…だ、れ―…?」
痛みと虚が消えた安心で、落ちるように薄れてゆく意識の中、悠華の瞳がなんとか捉えられたのは、白い死魄装と真っ黒の髪だけだった。
.