第2章 始まりの日
「わわ…っと。
――ここは…」
壁のプレートに刻まれた、空座町という文字を見てはっとする。
悠華が飛ばされた先、それは空座町の住宅街らしきところだった。
「すごい、漫画と同じ…
あたし…ほんとに、来たんだ…!」
零した感嘆の声には、分かりやすく喜びが浮かんでいた。
一人喜ぶそんな悠華の背後に、大きな黒い影が忍び寄っていることに、彼女はまだ気づいていなかった。
ウオオオォオォオオォォンッッ
突然の雄叫びに気づき後ろを振り返れば、そこには自分より遥かに大きい虚が立っていた。
「いや、ちょっと…いきなり虚って…いやいや…」
なんてベタな。
込み上げる恐怖をごまかしたくて、一人そう茶化している間にも、虚は叫びながらこちらに近づいてきていて。
震える脚で、じりじりと後ろへ下がりながら距離を保っていたその時、ふと悠華は一つのことを思いついた。
「これ…いけるかな?」
そう零すと虚に向かって掌を翳し、がたつく脚を押さえ付けてその場にしゃんと立ち止まって。
「―君臨者よ!血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ!真理と節制、罪知らぬ夢の壁に、僅かに爪を立てよ!
――破道の三十三…蒼火墜!!」
ズドン、という激しい爆発音と眩しい光とともに、辺りは煙に包まれて。
「わー…ホントに撃てちゃったよ…」
鬼道を放った自分の掌を、信じられないというような顔で見つめて感動する悠華。
だが、現実はそう感動していられる状況でもなかった。
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