第2章 始まりの日
「あ、あの…本当にごめんなさい。あたし、貴方の名前も分からないの……ずっと忘れてたクセに教えてなんて、図々しいのも分かってるんだけど…」
腕の中で懸命に伝えようとする悠華の姿に、少し胸が痛む。
(こいつが謝る必要なんてないのにな…)
苦笑いを零しながら、男の人は腕を離す。
「…大丈夫だ。忘れてたのも、お前が望んだからじゃない。ちゃんと教えてやる。
ーー俺の名前は『龍仙華』
我が力は、我が主の為にのみ在りしモノ。主が望むならば、俺は喜んで力を貸そう。
全ては、主の御心の侭に……」
男の人ーー龍仙華が悠華の許に跪く姿は、忠誠を誓う騎士のようで。
「…ーーありがとう」
その姿に、悠華も応えるように膝を折り、頭を下げる。
「こんな主だけどーーよろしくね、龍仙華」
そう言って柔らかく微笑む彼女の笑顔は、とても温かく美しかった。
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