第2章 始まりの日
(あれ、そういえば…)
悠華は、ふとある事を思い出す。
「ねぇ…いくつか質問しても、良い?」
「いいぞ。どうした?」
「…貴方があたしの斬魄刀なら、あたしは向こうの世界にいた時、死神だった、ってこと?」
確認するように首を傾げると、男の人はこくりと頷いた。
「あぁ、そうだ。
…やっぱり、なんも憶えてねえんだな…」
そう悲しそうに零す男の人の姿に、胸が締めつけられる。
「ごめんなさい…本当に何も分からないの…」
俯いて申し訳なさそうに謝る悠華を、気にするなと男の人は頭を撫でて慰めて。
(歯痒いもんだな…こいつには記憶がないってのは…)
悠華に過去の全てを話したところで、それで昔の彼女が帰って来る訳でもない。
それならば、まだ。
(ーーあんなことは、思い出さない方がいいんだ。今のこいつにまで、"姫"としての業を背負わせることはない)
黙り込んでいた男のことを不思議そうに見上げる悠華。
昔と変わらないその容姿。全く変わってしまっていれば、こんなにも悩むことはなかったんだろうか。
ーーいや、変わってしまっていても関係ない。
今度こそ、必ず。
幸せになってほしい。
そんな祈りを込めて、 男の人は少女を強く抱きしめた。
.