第2章 始まりの日
男の人は悠華の頬から手を離せば、また真面目な顔に戻って話を続けた。
「…お前は俺の世界の中にずっとはいられない。
かと言って、さっきまでの世界に戻ったところで、あのまま死を待つしかない。
ーーそこでだ。魂魄だけでも存在できるあの世界に、お前を"戻す"ことを思いついた。
ま・あの世界ってのは言わずもがなだろ?」
僅かに口角を上げてそう話す男の人の言葉に、悠華は思わず茫然としてしまう。
「ーーあの、世界…」
その言葉の意味は、きっと自分が望んでいたBLEACHの世界のことだと、悠華の心の中で何かが自然にそう決め付けて。
その勝手な断定は、最早疑う余地すらないほど悠華の頭に居座って、離れようとはしなかった。
だが、悠華にはそれと同時に、もう一つの言葉が気にかかっていた。
(―あたしを"戻す"って、どういうことなの―…?)
「―悠華。お前、あの世界に懐かしさを覚えたことはねえか?」
懐かしさ。
彼の言うとおり、確かに自分は最近、一護たちの世界に懐かしさを感じていた。
だが、そのことは親にも友達にも、誰にも今まで一度も言ったことはない。
ならば何故、目の前の男の人はそんなことを言うのだろうかーー…?
「…確かにあります」
こくん、と小さく頷き、震える声でそう答える。
ドクン、と乾いた鼓動の音が、耳のそばで騒がしく鳴り出して。
その音は、徐々に悠華の全身を支配していき、視野を狭めていく。
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