第1章 ※煉獄杏寿郎
「他に何か入り用はございますか?」
夕餉が終わる頃に家人がまた気を利かせて訪ねてきた。
「いえ…特に…『では、厚かましいが酒と少しばかり肴をいただけないだろうか!』
「かしこまりました、すぐにお待ち致します。お布団は隣のお部屋にご用意させていただいております」
そういうと家人は本当にすぐに酒と肴を持ってきた。
「杏寿郎もお酒飲むんだね、ごゆっくり、おやすみ」
そういって休もうとしたら、
『何を言っている!カヲルも付き合え!』
「え、私?」
『そうだ!こうしてゆっくり話す事など普段中々出来ないからな!それに君は先程の俺の質問にも答えていないだろう!!』
(あぁ、さっきの、腕を上げたな…のくだりか)
「わかった、じゃあ私もいただこう」
とぷとぷ…
お互いに酌をしあって、盃を交わす。
杏寿郎はツゥっと酒を呑み、ゴクリと喉を鳴らした。
普段隊服を着ていると見えない首元や少しはだけた胸元から逞しい筋肉が見え隠れする。
なんだか恥ずかしくなってきて、私も杏寿郎に続いてグッと酒を飲み干した。
空いた盃にまたお互い酌をしながら酒を進めていく。
『早速だが、カヲルはどのように日頃鍛錬しているのだ!?』
『継ぐ子は取らないのか!?』
杏寿郎はこちらが答える間もなく質問を矢の如く投げかけてくる。
「杏寿郎、少し落ち着いて」
うむ…と、ようやく私の話す間ができた。
「別に特別な鍛錬はしていない。強いて言うなら鬼を倒すことが日々の鍛錬になっている。どれだけ広範囲に効率的にたくさん鬼を倒せるか…それを考えているから…多分…柱の中でもそこそこ鬼を倒していると思う…」
む…と杏寿郎は顔色を変えずに私の話を聞いている。
「そんな生活だから…屋敷には殆ど居ないし…私に付いてこれるような隊士もいないと思うから…継子は取らない」
しん…と、静かな夜に私の声が響く。