第2章 前日、罰は免れた【稲田】
「本当に、大丈夫ですから離してください」
何せ黄色い声の目的はほとんどこの稲田先輩だ。さっきから周りの視線が段々厳しくなってるような気がするのは気のせいじゃないんじゃないかと思い出す。
単に後輩として声をかけてもらってるだけだけど、ファンからの報復とかドラマのような展開もゼロじゃない。
「う~ん、でもせっかくの頬触ってるんだから離すのもったいないよなぁ?」
もったいないとか言いながら楽しそうに頬をふにふに摘ままれても同意なんてできるわけない。
「いや、本当にそろそろ部活行かないと怒られるんで」
「そういや部活対抗リレーに出るんだってな。あの恰好で走るんだろ」
「豊西先輩がクラスのリレーに出るから、一年女子は全員強制参加なんです」
各部活から六人ずつのチーム編成。公平を期すために女子は半周男子は一周。当然女子が多い方が有利になる。
「そうか、楽しみだな」
「私は馬に乗って走れるんなら良かったんですけどね」
あのユニフォームは馬と一緒であってこそ引き立つと思っているから、あの恰好だけで鞭持って走るなんて恥ずかしい。
「いやいや、アレはかっこいいしに似合ってる。可愛いぞ」
「ありがとう、ございます」
だからそうやっていい顔でニコニコ笑わないで欲しい。
視線をソッと横に向ければ、明らかに敵意の籠った目で見られていた。
「本当に、本当に部活に送れるので!」
手を外してもらおうと手首を掴んで力を入れるが、圧倒的な力の差があるのかビクともしない。それどころかすごく楽しそう。
「お、遅れると依田先輩にボコボコにされるし中島先生に精神的攻撃くらうんです」
「ボコボコ? 女の子に暴力はいけないな~」
危機感を煽る作戦は失敗した。むしろ心配されている。
いや、この顔はわかってて意地悪してるんだ。今ならタマちゃんの言ったことがわかる気がする。
「何なら俺から言ってやろうか?」
「いいですから~!」