• テキストサイズ

恋、つまり、まばたき(R18)【カラオケ行こ!】

第6章 恋はつまり、まばたきの間に(終)


話は尽きないが、搭乗時間は迫ってきている。
楓は最後に、どうしても聞きたかったことを尋ねようと思った。

「ねえ、狂児さん……子供、欲しかったですか?」

我ながら思い切った質問だと思った。でも、今しか聞けないのだ。楓は息苦しさと緊張を覚えた。
狂児はコーヒーを一口飲むと、少し視線を空に泳がせ、間を置いて考えてから口を開いた。

「正直、おってもええなと思ったことはある」
「おってもええなっていうのは、私との間に?もし出来ていたら、産ませてくれました?」
「……」

狂児は少しの沈黙の後、楓の目を見てまっすぐ言った。

「俺は楓ちゃんの事、好きや。今でもな。もし子供が出来てたら、認知したで」

狂児の精一杯の気持ちが、誠意が見えた気がした。
狂児の中の愛情を、すでに過去のことになったとはいえ狂児なりに示してくれたことが楓にとってなによりの餞別だった。

「……ありがとう、狂児さん。私、その言葉が聞けて良かった」

そうはならなかった二人の前には今それぞれ、別の未来がある。ほんの少しのにがさが、二人の間に共有される。
楓は狂児への想いを、彼の幸せを願うことで途切れさせられると感じた。


/ 53ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp