第6章 恋はつまり、まばたきの間に(終)
「狂児さんのお陰です……ほんまに、感謝してます」
「そんなん、なんか照れるわ……」
「ねえ狂児さん、聡実くんには会えましたか?」
そう尋ねた時、狂児は目を丸くした。今までに見たことのない顔。
それから目を閉じて俯き、クク、と肩を震わせて笑う。
「今それ聞くんか」
「聞きたいです」
「タバコ吸いたいわあ」
「ここは禁煙なんですよね。残念です」
「なんや楓ちゃん、聡実くんみたいな返しするわぁ……」
「会えたんですね」
少しの寂しさと、高揚感が沸き起こった。
「会った。会うたよ。三年半経って、お兄ちゃんになっとった」
そこで狂児は言葉を切って、噛みしめるように遠くを見つめた。眩しそうな目で。
「俺がおらん間に、どんどん変わっていくんやもんなあ」
まいったわあ、という狂児の頬が少し上気して見えるのは、気のせいではないと思った。
「あの年頃の男の子はどんどん成長しますからね。東京に行くんでした?聡実くん」
「そうやねんなあ。まあ東京に用事ないこともないし、ツキイチで行くくらいやけど……なんか理由作って会いに行かなあかんなあ」
この人、こんなにかわいかったっけ?
楓の口角が震える。
恋をすると、相手が誰だろうと、何歳だろうと、やくざだろうと、こんな風になるんだ、と感じた。人間って愛おしい。
「今、聡実くんのことかわいそう思たやろ。こんなおっさんに惚れられてしもて」
「思ってません。私、お二人のこと応援してますから」
「……楓ちゃん、そういうのやめて」
狂児が目を細めて渋い顔をしてみせた。
「何でですか?」
「恥ずかしい」
楓は眩暈を覚えた。
もう、抱きしめたいくらいかわいい。