第6章 恋はつまり、まばたきの間に(終)
搭乗開始時刻が近付き、二人でゲートのある4階に向かう。
「帰ったらまた連絡してや」
「はい。……その時またお二人のこと、聞かせてくださいね」
「なんで俺の話やねん。楓ちゃんの話やろ。……頑張りや」
「はい!」
ぽんぽん、と頭を撫でられる。幾度、こうして頭を撫でられただろう。目の奥が熱くなる。我慢しようとしたが、抑えられなかった。
まばたきをすると溢れ、とめどなく流れ落ちた。
もう楓の人生の先で交わることは恐らくない、大好きなひと。
楓は狂児には2年ほどで日本に戻ることもあるかもしれないと告げたが、最低でも5年は戻らないつもりでいた。もしかすると、これが今生の別れになるかもしれない。これから先、彼の無事を祈らない日はないだろう。愛する人との日々がどうか1日でもいい、永く続くように。
楓は流れる涙に構わず狂児を見た。
狂児の右手を取り、握る。大きな手がしっかりと握り返してくれた。
「体に気をつけてください。その……危ない事は、あまりしないで」
「うーん……最初の方だけありがたく受け取っとくわ」
「行ってきます。狂児さん。ありがとう……大好きです」
「俺もやで。楓ちゃん、……大好きや」
少し照れくさい響きに二人、ふふ、と目を見合わせて笑う。
心からの感謝と、愛を込めて。
終