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恋、つまり、まばたき(R18)【カラオケ行こ!】

第6章 恋はつまり、まばたきの間に(終)



楓はその箱を両手で受け取り、じっと見つめた。
「チャンス」という文字を親指で何度も撫でた。狂児の愛用の香水と同じブランド。
狂児と連絡が取れない間、彼と同じものを使って寂しさを埋めようとカウンターに向かったが、香りと名前の良さから結局これを手にした。

「嬉しい……ありがとうございます!」
「いやいや。荷物預ける前でよかったわ」

狂児の横顔が少し照れているように見えるのは、気のせいだろうか。




空港内の2Fにあるカフェで、二人で向き合った。

「楓ちゃんの連絡、絶対見送りに来いってことかと思ったわ」
「そういうわけではなかったんですけど……」

知らない間に狂児にプレッシャーをかけていたようだ。楓は苦笑いした。


あの悲しい夢を見た日、楓は留学の決心をして狂児に今までの関係を清算したいと連絡をした。怒られ、拒否されるかもしれないと思った。でも何割かは、楓の話を聞いてくれると思った。彼はこわいが、ずっとやさしい人だったから。
狂児にとっては寝耳に水のことだったようで、朝早い時間に関わらず楓の部屋に飛んできて、楓の話を真剣に聞いてくれた。
そこで楓は狂児が、本当に自分のことを愛してくれている、と初めて実感できた。
「聡実くん」のことは別として、狂児と楓との間には間違いなく絆があった。
初めてそう思えた時に別れ話を切り出すなんて、とても皮肉なことだと思ったが。


「向こうのこととか、もう手続き済んでるんか?」
「はい、あちらで住むところと、働くところと。今まで働いていたところで紹介して貰えたんです。まず語学の勉強をしてから、メイクの専門学校に通うことになると思います」
「そうか。なんや、強なったなあ、楓ちゃん……雰囲気変わったわ」

狂児が少しだけ、目を細める。
あ、と思った。あの右腕の刺青を見る時と同じ目で、今、楓のことを見ている。
こんな時にそんな目をしないで、と言いたかった。もう彼とは、数ヶ月体を重ねていない。
いとおしさと、少しのかなしさが胸に迫る。


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