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恋、つまり、まばたき(R18)【カラオケ行こ!】

第5章 はばたきは、にがく


いいや。
そしてそこまで考えて、再び思い直した。
罰であるはずの刺青を見つめるときの、眩しそうな目。
真っ黒で光を映し出すだけの狂児の目が、
くらみそうになるほどの。

「狂児さん、出所してから……その子には会ったんですか?」
「いや、会ってない。スマホ壊れてしもたから、連絡先も分からなくなったしな」

でも、あなたはわたしに会いに来てくれたやないですか。
楓は喉まで出かかった言葉を押さえ込んだ。楓に会うのは、狂児にとってはハードルは低いことだ。マンションも、元々の勤め先の母親のスナックも分かっている。
でも彼なら、求めればそれが叶うだけのものを持ち合わせている。どんな障害があったとしても。

「会いに、いってみたらどうですか?」

狂児が楓を見る。何だか胸が痛くなる表情だった。
どうしてだか彼を傷つけてしまったような気がして、楓は言ったことを後悔しかけた。

「だから、連絡先も分からなく……」

狂児はそう言った後、視線を泳がせて、口元に手を当てて少し考える仕草を見せた。

「そうやな、会いに行ってみるわ」

楓は笑って、頷いた。




その話をして、今に至る。
その会話がずっと楓の中で燻っていたのだと思う。
彼が楓に出所後も会いにきてくれたのは、楓に恋をしているからではない。楓は彼にとって恋のお相手ではなく、所有物だからだ。存在と状態の確認をしに来ただけのことだ。
だが、聡実、はどうだろう。
楓が聞くまで話さなかった。
聡実から受け取ったものは狂児の心の柔らかいところに押し留め、大切にされてきた。
だから、会いに行けなかったのだろう。狂児の心を察すると、胸が痛む。

今思えば、さっきの夢の中の狂児は、本当に幸せそうだった。
あれがもし彼の本心だとしたら、彼のあの言葉はきっと、あの腕の刺青の名前の持ち主に。

色々なことの辻褄があって、楓は嘆息した。

それならそれでいい。彼の幸せを祈るだけ。そう考えると、病んだ胸にも少し優しい風が吹く。
25も下の、堅気の同性と一緒になって幸せになれるかどうかなんて分からない。だけど狂児の話を聞く限りは、二人はお互いに惹かれあっている。そう感じた。それだけで幸せなことだと思った。

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