• テキストサイズ

恋、つまり、まばたき(R18)【カラオケ行こ!】

第4章 いとしくて、かなしい 2


「お願い、狂児さん、私が気絶してしもても、やめないでね、お願い」
「楓ちゃん……」
「お願い、お願いします」

狂児の肩口に額を押し付けると、鼻腔の中で甘く華やかな香水と、狂児のからだの匂いが混ざり合う。そのやわらかさに体の力が抜けて、狂児の熱さがより深くまで届く。
背中を強く抱きしめられて、少し苦しい。だけどその密着感がとても安心できた。

「あぁ、あっあっあっ、いく、あぁ……!」

激しい快感にまた視界が眩み、全身が震える。狂児は楓のその余韻が引くまで腰を抱いていてくれた。それから楓をぎゅうと抱きしめると、またベッドに倒れ込む。目の奥が熱くなり、喉から言葉ではない、獣じみた声音が漏れる。もう、何も考えられない。腹の中から広がる甘い快感は際限なく続いて広がり、頭の先から足先まで、ピンク色の暖かいゼリーに浸かったような感覚に陥る。どこを触られても声が出てしまう。
狂児が楓の顔を覗き込んでくる。楓は必死でその顔に焦点を合わせる。涙で潤んだ目と快楽で爛れた視床には正しい像が結ばれない気がしたが、それでもその愛しい人の顔を、一秒でも記憶に刻んでおきたい。

「大丈夫か?」

熱い吐息を孕んだ狂児の声。必死で意味を手繰り寄せる。大丈夫かと問われている。分からない。戻ってこれないかもしれない。でも、それでもいい。楓はただ頷いた。

狂児の唇が近寄る。タバコの匂い。やわらかいまつ毛が頬に触れる。その近さに心が揺れる。腰の律動は止んでいた。
意識がゆっくり鮮明になる。楓は、はぁ、と息を大きく吐いた。
狂児の手のひらがふわりと楓の頬を撫でた。

「すごい声やった」
「……はずかしい……」

声はかすれ切って、喉が痛い。

「あとで水飲みや」
「分かりました……」

狂児が自分を気遣ってくれる。その他愛ない優しさが、甘い快感とともに沁み入る。涙が溢れる。
どうして、この人を愛してはいけないのだろう。自分で決めたはずなのに、時々忘れてしまう。
愛してはいけないのに、愛してしまっていることも。痛みが胸を占める。
/ 53ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp