第3章 いとしくて、かなしい
「例のカラオケ大会のヤツや。組長が俺の腕に、俺のカラオケの先生の名前彫りよった」
「カラオケの、先生……?」
話がよく見えない。
「今聞きたい?多分俺も楓ちゃんものぼせるで」
「……後にします」
気になるけれど、彼の口調では女ではなさそうだと思った。そもそもそういうことをしそうなタイプではないだけに、衝撃を受けたのだ。他の愛人の名前を入れたという以外の理由があるなら、戸惑わなくて済む。
だけど何か、違和感のようなものを覚えた。
普段の彼なら聞かなくても色々話して来そうなものなのに。
出所後にカラオケ大会最下位、というだけでもバツの悪い話であまり話したくなかったのかもしれない。後でゆっくり聞こう、と楓は思った。
体を半回転させて、狂児に向き直る。首筋に腕を絡めて胸元に頭を預けた。
なめらかな肌が触れ合う感触がとても心地いい。それは狂児も同じようで、見上げると楓を目を細めて見つめてくる。
「あ、髪型変えたの、だからなんですね」
「だからて?」
「一回その、刈られちゃうから」
「あーあー、そうやで。まあ出所直前に少し伸ばせるけどな。サイド短くなってしもたからな……まあこの方が楽やわ」
「いっそう男前に見えます」
「ふふ、そうか」
狂児はまんざらでもなさそうに、濡れた手でざっと髪をかきあげる。
楓は指を伸ばして狂児のうなじをそっと指先で撫で、薄い耳朶に触れた。
狂児は目を閉じて、ふん、と一息吐いて満足げに楓の愛撫を受け入れている。
鎖骨に唇で触れ、ごく軽く歯を立てる。肩を手のひらで撫でて、胸元へ唇を滑らせた。
柔らかな褐色の突起に触れる。唇で挟み、舌先でちろちろと舐める。
「ふふ、こそばいな」
「ひもひいいれふか?」
「気持ちええで」
少し硬くなったので、唇に力を入れてさっきよりも強めに愛撫する。反対側も指先でつまんで、愛でる。
狂児がふう、と少し大きく息を吐く。楓の愛撫に反応してくれるその姿に、喜びを覚えた。
狂児の指が楓の脚の間に伸びる。
「んん……」