第3章 いとしくて、かなしい
「もしかしたら、母に連絡が入って、母は私に黙ってたんかもしれません」
「楓ちゃんに?なんで?」
「それは……」
「俺と縁切らせたくてか?」
楓は黙って頷いた。
楓の母のこともある程度狂児は知っているので、多くを話さなくとも察してくれたのだろう。
「そうか……まあ分かるで」
「あとで母に確認してみます」
「まあ、ええよ、それは。本来楓ちゃんに直接伝えなあかんことをせんかったうちの組のモンも悪いし、せやけどもう2年前のことや、どっちも不問にしよ」
少し歯切れの悪い返事をして、狂児は話を続ける。
「……うちの組を破門になったやつとのトラブルでな。まあ先仕掛けてきたんはあっちやけど。車乗ってる時にそいつが別の車で横から突っ込んできよってん」
ひ、と楓の喉から声が漏れた。
「突っ込んだんが助手席側やから助かったで。でもその報復で手ェ出してしもた。あっちのが罪は重いで。お陰で初めてのムショ暮らしやったわ」
「そうやったんですか……私、何回狂児さんの事務所に行こうかと思ったか。何度も連絡を送ったけど既読が付かないし……結局事務所には行かなかったですけど」
捨てられたと思って、と喉の奥まで出てきたがそれは言わなかった。
今はこうして会えているから。
「ちゃんとマンションの家賃は払われとったやろ?」
「それは、はい……狂児さん、優しいから……しばらくはそうしてくれてるんかなって」
狂児はふ、と笑って短くなったタバコの火を消した。
「スマホ無くなって楓ちゃんの連絡先わからなくなってしもて、そやけどいきなりマンション行って居らんかったら嫌やな思て、仕事場の方に行ってしもた。顔見るだけやってんで、ほんとは」
ほんとは、の意味を考えて楓は赤面した。
「まあちょっとは驚かしたろ思てたけどな。顔見たら色々溜まってたん爆発してもた」
そう言ってケタケタ笑う。本当に人が悪い。
「びっくりしました。でも、またお会いできてよかった……」
「色々、心配かけてしもたな」
「はい……そんな大変な事になってたやなんて……お疲れ様でした。無事でよかった……」