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恋、つまり、まばたき(R18)【カラオケ行こ!】

第3章 いとしくて、かなしい


狂児の運転する黒塗りの車に乗せられ、北新地へ来た。元女優だという女将がいる小料理屋に入り、奥まった個室へ通される。
そこでようやく楓は狂児に、色々と質問できる余裕が持てた。

狂児はメビウスの箱から一本取ると、テーブルの上でトントン、と叩きながら意外そうな表情になる。

「そうか、聞いてなかってんな楓ちゃん……俺、2年ちょい刑務所入っててん。傷害で」
「……けいむしょ……」

タバコを口に咥える狂児に灰皿を寄せ、今度こそ楓がライターで火をつけながらその言葉を反芻した。
彼の仕事ではよく耳にする言葉なのかもしれない。だけど目の前の、いい仕立てのスーツに身を包んだスマートな色男が当事者とは思えなかった。彼が髪を短く切り、収監されているところなどとても想像できない。

「楓ちゃんやったら面会くるかな思てたけど、そうか、納得やわ」
「ごめんなさい、知ってたら行ってました……」

楓は唇をきゅ、と引き結んだ。いつもどこか冷静な彼が、人を害して逮捕されるなんて余程のことがあったのだろう。

「入る前に連絡したかったんやけど俺のスマホダメになってもうててなあ……連絡先が分かる分だけ俺がおつとめするってこと伝えといてなって、組の人間には言うててんけど」

まあ、楓ちゃんは俺のほぼプライベートの関係やからなあ、と呟いて紫煙を吐く。

楓はもしかしたら母が自分のところで、その話を止めたのかもしれないと想像していた。
楓は狂児と連絡が取れなくなる直前に、家を出て働くようになっていた。祭林組の人間から話があったとしたら、組との関係上母が受けたのだろう。組とも楓とも関係の深い母親になら、伝えても問題ないと思われても仕方はない。
そして母親はやくざ者に囲われる娘を案じ、もしかしたらこれで縁が切れるかも、という考えで楓には伝えなかった、のかもしれない。
娘のことを考えてなのかもしれないが、些かずれたところのある母親だと思っていたので、十分考えられる。
男を代わる代わる変え、借金を重ねた母。それすらも「楓のため」と涙ながらに訴えられたこともあった。父親がいなくて寂しいだろうから、貧乏な思いをさせたくないから、と。
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