第5章 霜天のブルーデイ《短編》
『ありがとう、少しお腹がすいたかも…っと。』
治に返事を送信したことを確認して、液晶をOFFにする。
何だかんだ、バレー部の中で一番気遣ってくれるのは、治かもしれない。
もちろん北さんをはじめとする先輩方はみんな優しいし、銀も親切にしてくれる。角名と侑は……うん、まあ…。
バレーへの熱量とご飯への愛の配分が同じぐらいだから、波長もあうのかな。
幸せそうにご飯を食べている治を見ると、わたしまでお腹が減ってくるし、幸せになれる。
ごはんの話をして一番盛り上がれるのは、間違いなく治だ。
そういえば私が一人暮らしだと伝えたら、家まで送ることを提案してくれたのも治だった。
具合が悪いことにいち早く気付いたのも、心配して帰るように勧めてくれたこともそうだ。
食べることにしか興味がないように見えて、実は一番気にかけてくれているのかもしれない。
今までのことを思い出して、目頭が熱くなるのを感じた。
どうして、治はこんなに優しくしてくれるのかな。
部に貢献できないなんて、マネージャーとしては失格なのに。
それでも。
『…弱っている時に、助けてくれる人がいるってあったかいなぁ。』
なんて幸せ者なんだろう。
誰にも聞かれることのないひとりごとをぽつりとこぼした。
すうすうと寝息をたてる侑の方に意識を向ける。
繋がれた手は、じんわりと熱を持っていて。
少し恥ずかしいけれど、決して嫌ではない。
むしろ、「ここにいるからな」と言われているような気がして、安心できる。
小さな子どもみたいだけど、何気に優しいんだよね。
治くらい真っ直ぐだったら、お互い素直になれるのにな。
侑も治も別々の一人の人間だ、ということは分かっているけれど、こういう時はどうしても比べてしまう。
まあそれでも、
治の真っ直ぐな優しさも、侑の不器用な優しさも甲乙つけられるものではなく。
どちらもとても愛おしくてあたたかい。幸せを噛み締める。
『ありがとう、治。侑。……大好き。』
届くことのない、愛しさとめいっぱいの感謝を呟いた。