第5章 霜天のブルーデイ《短編》
ピコン。という無機質な着信音で目が覚める。
『んん、』
薄暗くなった部屋の様子から、1時間ぐらいは寝ていたのだろうか。
重い目蓋を開けて、音の発信源である携帯を探そうとすると左手に重さを感じた。
目線を動かすと、ベッドの縁で突っ伏している金髪頭が視界にはいる。
左手は指先まで繋がっていた。
絡め取られた手のひらから、とくとくと侑の脈搏を感じて、何となく気恥ずかしくなる。
試しに振り払おうとしてみるも、信じられないほどがっしりと握られていて解けそうにない。
まるで逃さないとでも言われているような気分だ。
ふと、普段上から見ることのない金髪頭が気になった。
好奇心で空いている方の手を伸ばしてみる。
ブリーチしているため、傷みやすくなっているのだろうが、その触感はふわふわとしていて心地よい。まるで子犬のようだ。色合い的には狐の方が近いのかもしれないが。
手触りを楽しんでいると、もぞっと動いたので慌てて手を引っ込める。
侑「……ん、」
起こしてしまったかな、と息を潜めていると。
侑「…………穂花、」
はじめて耳にした寝言は、今まで聞いたことのないような、柔らかく慈愛に満ちた声で。
侑「はよ元気になってや…」
繋がれた力が強くなるのを感じた。
『……う、わ』
頬の温度が上昇するのがわかる。
侑はずるい、
こんなの反則だ
枕に顔を押しつけしばらく悶えていると、目を覚ました理由を思い出す。
枕横にあった携帯を手に取り、画面をオンにする。
明度を上げた液晶に、「何かほしいもんあるか?」という文字が映し出される。
差出人は、いま横で眠っている仲間の片割れで。
侑と同じ遺伝子ということもあって、時々二人で暴走することもあるけれど。基本、治は( 侑とは比較的に )落ち着いていて頼りになる。クセ者が多い2年の中でも割と温厚な方で、常識人でもあって話しやすい。
今はその真っ直ぐな優しさが胸に沁みた。