第5章 霜天のブルーデイ《短編》
『治、こんなことまでありがとうね、、、二人も忙しいのにごめんなさい』
申し訳なさに耐えかねて思わずそう告げると、「アホか」と侑からデコピンが飛んでくる。痛い。
治「あのなあ。体調が悪いときくらい甘えても泣き言いってもええ。」
大きい掌がぽんと頭の上に置かれる。いつだって治はあたたかい。
治「いつもは俺らが世話になっとるからな」
侑「まあ、今日くらい面倒見たる」
角「はやく治してよ。マネがいないと…なんか、調子狂うしさ」
『…うぅ』
分かりにくいけれど、角名も優しいひとだ。
素直ではない、でもこちらを気にかけてくれていることは何となく伝わる。
弱ったとき誰かが隣にいてくれる安心感、風邪のときにじんわり身体を温めてくれる料理。普段食べてもきっと美味しい卵雑炊は、いつもの何倍もポカポカで沁みてしまう。
胸がいっぱいになると同時に溢れ出した雫を、止める術なんて知らなくて。
治「ちょっ、大丈夫か宇佐美?どっか痛いんか?」
角「あーあ、侑が泣かした」
侑「は?!俺何もやってへんやろ!角名ァ!」
心配そうに顔を覗き込んで涙を拭ってくれる治の後ろで、侑が角名の煽りに噛み付いている。
わちゃわちゃと戯れる彼らの姿を見て、場所は違えど見慣れた光景にどこか安心する。
ああ、やっぱり私。
稲荷崎高校男子バレーボール部が好きだ。
面倒見がよく尊敬できる監督と先輩方。
慕ってくれて手助けしてくれる後輩達。
その中でも”同期”という存在は特別で。
入部した時から苦しさ、楽しさ、経験や感情、様々なことを分かち合ってきた大切な仲間。
もちろん選手とマネージャーを同格に語ることは烏滸がましいと分かっているけれど。
この素晴らしい同期と出会えたこと。
なんて幸せ者なんだろう。そんな想いが込み上げる。
『ありがとう。みんな大好き!』
私はどこにでもいる何の変哲もないマネージャーで、
彼らの特別にはなれないかもしれないけれど。
今日だけは真っ直ぐな気持ちを伝えても許されるのではないだろうか。
面食らったような彼らの表情をみて、自然と笑みが溢れた。