第5章 霜天のブルーデイ《短編》
「にしても、こんなとこで会えるなんてラッキーやなぁ」
「てかちょっと顔色悪くない?平気?」
「ほんまやなあ。風邪か?」
『や、大丈夫ですから…』
やんわりと拒絶の言葉を口にしながら距離を取ろうとするも、後ろは壁で身動きがとれない。
いつの間に肩に手も置かれていた。
知らない人から触れられるのは、いくらなんでも気分が良いものではない。
乗せられた手をさりげなく払おうとするのだが、思ったよりも力強くて振り払うことさえできず。
「え〜、そんなこと言わないでさ。具合悪いならちょっと休んでこうよ?」
「せやせや。俺らが看病したる♡」
「お家どこ?一緒に行こうか。」
わたしを置きざりに話が勝手に進んでいく。
稲荷崎に負けたとは言え、相手も男子バレーボール選手。
その圧倒的な体格差の前には、どうしたって自分は非力で。
抵抗しても叶うはずがない現実に少し怖くなってくる。
触れられた部分は、だんだん血の気が引くような感覚すらした。
体調が万全じゃない今は走って逃げ出すこともできないし。
万策尽きたこの状況に閉口していると、二人は無言の肯定と受け取ったのか抱きかかえようとしてきた。
『やっ、!』
「おい、その汚い手えどけろや」