第5章 霜天のブルーデイ《短編》
銀「にしても、宇佐美ほんまに大丈夫か?」
治「最後のほう、むっちゃ辛そうやったな。」
穂花を見送ってきた2人が、少し遅れて体育館へとやってきた。
二人の姿を見て、心底にとぐろを巻く暗い気持ちがより大きくなっていく。
ふと、何かに気づいた様子の治が近づいてきた。
治「おい、眉間むっちゃシワ寄ってんで。もう老けたんか。」
侑「喧しいわクソサム!!!!」
くっそ、コイツ人の気も知らんくせに何やねん…!
俺の噛みつきをまるで意に介さないように、さらに距離を詰めてくる治。
そして誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
治「…お前、ダサい意地張ってて後悔せんのか」
侑「!」
ーーくっそ、コイツには全部お見通しっちゅうわけか。
侑「ほんっま、……なんやねん、」
こういう時、自分とおんなしDNAの奴がいるって嫌やなあと痛感する。
言葉にしなくても考えていることはなんとなく伝わってしまうらしい。
ーーほんまに厄介や。プライバシーもあったもんやないな。
それでも。
今は言わなくても理解してくれている存在がありがたかった。
治なりに背中を押してくれてんのはわかる。だって俺らはおんなしDNAの双子やし。
こいつに言われるのはちょっと、いやかなり癪やけどな。
そう思いつつ、身体は勝手に体育館の扉の方へ動き出していた。
侑「俺、ちょっと抜けるわ!北さんに言うといてや!」
治「あ゛?自分で言えや!」
そう吐き捨てた片割れの口調は怒りと呆れを含んでいたけれど。
口元は少し微笑んでいるようにも見えた。
今日ばっかりはサムに感謝せんとな。
ありがとうな、なんて。本人には決して伝えることのない謝礼の意を心の中で呟く。
待っとれよ、穂花。
マネージャーのいる方へ吸い寄せられるように、勢いよく体育館を飛び出した。