第5章 霜天のブルーデイ《短編》
勢いで3年7組の教室前まで来てしまった。
北さん怒るかな…とびくびくしながら主将に伝えに行く。
『北さん。体調が万全ではなくて、部員にうつしたくないので今日は帰らせてもらいます……体調管理ができなくてすみません…』
じっと、こちらを見つめてくる主将の視線が恐ろしい。
北さんは顎に手を当ててなにか思案している顔だ。
少しの間沈黙が続き、重苦しい空気にいたたまれなくなったところで、ようやく主将が口を開いた。
まあ、風邪引くのは感心せんけどーーー、
その次に続く言葉を想像して、固く握りしめた拳にギュッと力が入る。
どんな正論パンチにも耐えられるように、奥歯を噛み締めた。
北「体調崩すことくらい誰だってあるやろ。いつも働いてもろうてるし、たまには早よ帰ってちゃんと休みや。」
『………き、北さん!ありがとうございますっ!』
想像より遥かにあたたかい言葉にじんわりと視界が滲む。それを隠すように慌てて深々と頭を下げた。
「あ、ちょっと待ち」
そう言って自分の鞄を開けて何かを探す北さん。何だろうと不思議に思いながらもその姿をだまって見つめる。
「手えだしや。」
言われたままに、おずおずと手を差し出すと小さな黒い物体が置かれる。
『…くろ、あめ…?』
男子高校生とは中々結びつきにくいそのお菓子。さすが北さん。おばあちゃんっ子といわれるだけある、と変に感動してしまう。
「今はこれしかないんやけど。ちゃんと飯食って寝るんやで。」
『…!そんな!北さんからなんて…!勿体なすぎます!』
「はは、大袈裟な奴やな」
そう言って優しく頭を撫でてくれる北さん。
ーーーーそれは…反則ですよ……北さん、!
バレー部の中では大きい方でないとはいえ、その包容力は抜群だ。
心地よさに自然と口元が緩む。
ああ、やっぱり私たちの主将はこの人しかいない。
というかもう大好きだ。恋心を抜きにしても存在が尊すぎる。
最高のキャプテンがいて幸せだなあと実感した。
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一方、その様子を遠目から見ていた双子は。
侑「え………何か俺の時と全然ちゃうんやけど……」
治「日頃の行いやろな」
侑「うっさいわ!」