第4章 終わりのないメランコリー《宮治》
よく知っているその香りは紛れもなく宇佐美のもので。
香水は汗の匂いと混ざるからつけないと言っていたから、柔軟剤かはたまたシャンプーの香りなのだろうか。
登下校の時でも部活中でも、汗臭さとは無縁のずっと嗅いでいたい優しい香りがする。
ただ、それは時や場合によっていつも違う。
爽やかで瑞々しい、柑橘類のような香りに感じる時もあれば華やかで柔らかい薔薇?みたいな香りの時もある。
そうかと思えば、甘く官能的で本能から揺さぶられる、イランイランのような香りの時も。
これはもしかして、既製品の人工的な香りなんかやなくて、宇佐美のフェロモン的なものなんやろか。
そう考えたことも一度や二度ではない。
それぐらい心地良くて、身体が求めている香りがするのだ。
とは言え、人の香りなどそう簡単に移るものではない。
よっぽど濃厚な接触がない限りは。
「……なあ、マネージャーと何かあったん?」
「…!」
侑の肩が微かに跳ねた。
振り返ったヤツの視線は泳いでいて。
「…べ、べつに何もないで。たまたま帰りが一緒やったから、たまたま家まで送ってっただけや。」
「………ふーん」
コレ、絶対なんかあったな。
明らかに挙動不審な様子に、我が片割れながらわかりやすすぎやろ、と心の中で溜息を吐く。
「まあええわ。飯、冷めんで。」
「お前が聞いたんやろ!」
否定された手前、これ以上追及しても面倒くさいことになるだけと判断して会話を切り上げる。
何かあったのはクロやとして、その内容まで分かるわけちゃうしな、
まあコイツがやりそうな事なんて大体考えはつくけど……いやでも宇佐美が気があるのは北さんやし………
真相はわからんけど、どっちにしても良い気はせえへんな。
あとでマネージャーの方に聞いてみよか、そんな風に悠長に考えていた。
宇佐美に次の悪夢が差し迫っているのにも気付かずに…