第2章 次なるミゼラブル《角名倫太郎》
〈side 角名〉
そんなある日、俺は見てしまった。
侑とマネージャーの秘密を。
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あの日の自主練、侑が抜けた後も俺は治と一緒に練習を続けていた。
そろそろ午後9時半になる。
外もすっかり暗くなったため、練習を引き上げて部室へ向かうと、既に侑は帰った筈なのに明かりが付いている。
それはほんの僅か。
でも確かに理由も無く違和感を覚えた。
気のせいか、宇佐美の声が聞こえたような気がしたのだ。
隣の治はそんなことは全く気にしていないようだったが。
部室に入ると案の定誰もいない。
今日の晩飯は肉が食いたいなどとぼやいている治に適当に相槌を打ちながら、帰宅の準備をする。
白状すると、治の話などほとんど耳に入ってこなかった。
俺の意識は椅子の下に落ちているあるものに釘付けになっていた。
臙脂色のヘアゴム。
いつも部活の時に宇佐美が付けているものだ。
何でも俺らのジャージと同じ色のものを探してきて、「稲荷崎カラーだからね、勝利の御守りみたいなものなんだ〜!」と嬉しそうに話していたことを覚えている。
宇佐美以外のものである可能性は考えられない。
でも女子マネージャーである宇佐美のものがこんなところに…?
マネージャーが部室に入ることは特段珍しいことではない。
現に、マネージャーと北さんが2人で部室の掃除をしている様子など、部員にとってはもはや日常的風景でさえある。
だが部活中に宇佐美が髪の毛を下ろしているところは見たことがない。
ましてヘアゴムなんて、解こうとしなければそうそう落ちるものでもない。
そう怪訝に思ったところで、また微かに宇佐美の声が聞こえた。