第1章 かくれんぼ(謙信)
夜長は照れくさそうに微笑んだ。
「城の外ではきっとご心配でしょうけれど、城内でしたら乗ってくださるかと思いまして」
「だから、何をしたかったのだ?」
「ただ、二人で遊びたかっただけなのですが……何だか思えば子供じみた事をしてしまいました」
「……それだけか?」
あまりに呆気ない言葉に何か裏は無いかと疑ってしまう。
「はい。なんだか申し訳ないですね。私は楽しかったので良いのですが、結局先に我儘を聞いていただいた形になってしまいました」
笑う夜長の額に額をくっつける。
「お前が楽しそうなら、俺も満足だ。しかしお前の勝ちは勝ちだからな。それに、俺は得る物もあった」
「得る物……ですか?」
「ああ。お前は普段機嫌良さそうに人付き合いをして、愛らしく笑っているが、よく人を観察して城の造りにも思ったより把握していたようだ。こうも駒使いが上手いとは思っていなかった」
「駒使い……ですか?」
「ああ。一番親しく忍術の心得のある佐助を頼らず、幸村と信玄の性格も心得た上で有効に使い、最短経路で部屋に戻ってのんびり高みの見物をするとは恐れ入った」
謙信が佐助の部屋に乗り込んだ時、佐助は何事かと怪訝な顔をしていたが、普段からとぼけている佐助の真意が推し量れずに随分しつこく問い詰めた。
佐助の部屋なら天井や床下をカラクリ仕掛けにしている可能性もあり、徹底的に調べていたらずいぶんと時間を食ってしまったのだ。
しかも探すだけ探した後で佐助に「そこまで安直じゃないでしょう。夜長さんだって謙信様の思考を読もうとするに決まってるじゃないですか」と言われた。
「そんなっ……!私は最初幸村しか頼りませんでしたし、それも匿ってもらっただけですよ。私が単純過ぎて面食らっただけでしょう」
「いいや。お前の機略ぶりは覚えておこう。俺はもっと簡単に勝つつもりだったのだがな」
「謙信様は何か考えていたんですか?勝った時のことを」
無防備な表情で尋ねてくる夜長に謙信は艶っぽく微笑む。
「当然だ。今宵はお前の膝を枕に、心行くまで酒を飲み、眠る前にお前を存分に愛そうと思っていた」