第1章 かくれんぼ(謙信)
「……えっと……、特に変わった事ではないように思いますが、膝枕、くらいでしょうか?」
やや頬を染めて言う夜長に謙信が言う。
「一番愛しいお前の膝に頭を乗せて、一番の楽しみの酒を堪能したかった。一番心躍る戦は諦めるしかないがな」
微笑む謙信に夜長も笑ってしまう。
「戦はあまり喜ばしくないですが、もう少し度胸がついたら戦の野営にお供して膝を貸してお酌をして差し上げられるかもしれませんね」
「それは酷くそそられるが、お前を危険な場所には連れて行けぬ」
本当に悩ましい顔をする謙信に夜長はおかしそうに笑い、思いついた事を口にした。
「では、同じ事を謙信様にお願いしたいです。私の勝利のご褒美に」
「……同じ事?」
「はい。お酒ではなく、針仕事ですが」
夜長の提案に謙信は顔をしかめる。
「寝転んで針を持つのは危ない」
嬉々として刀を振るう謙信に大真面目に言われ、夜長はおかしくも気持ちが和む。
「はい。ですから、枕ではなく背もたれにお借りします、謙信様の胸を。謙信様は晩酌されてください」
謙信は夜長の言葉に首を傾げた。
「そんな事で良いのか?膝に乗せていれば良いのだろう?」
「乗せなくて良いですよ。足の間に入れて下さったらのんびりもたれて針仕事が出来ます」
「……何が楽しいのか今ひとつ分からんが。お前が望むのならば構わん」
穏やかな表情で承諾され、夜長も「ふふっ」と笑う。
「この世で一番愛しい人にもたれて、一番楽しい針仕事が出来るなんて至福ですね。ですから、謙信様もお酒を楽しんでください。二人で楽しい事をしたいです」」
嬉しそうに笑う夜長に謙信も思わず苦笑する。
勝負と言いながら、「二人で楽しいのが嬉しい」と言うのだから、やはり夜長には敵わないな、と思うのだ。
二人は一度、触れるだけの口づけをして身を寄せ合う。
綾なす山に夜の帳が下りるのを、のんびりとで待ち侘びて過ごすのだった。