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【イケメン戦国】雑記こもごも—短編集―

第1章 かくれんぼ(謙信)


「お前、呑気で清廉潔白な顔をしているくせに、ずいぶんと腹黒い戦略を実行してくれたな」
笑って頬に手をあてると、夜長は驚いた顔をする。
「腹黒いだなんて、手段は選ばないと言ったのは謙信様じゃないですか。私、頑張ったんですよ?」
頑張ったという割にはどうやら呑気に針仕事をして待っていたらしいのが部屋の様子で分かる。
「そうだな。まんまと翻弄された」
「そうなんですか?あんまり遅いので、すっぽかされたのかと疑うところでした」
「勝負を受けてすっぽかす訳が無いだろう。……まったく、ここまで裏をかかれるとは思わなかったぞ」
「そんなこと……、出て行ったと見せかけて戸口にいるのと同じくらい、出発地点に戻って隠れるなんて定石だと思ったのですが。私は謙信様みたいに複雑な戦略なんて立てられませんよ」
あまりに何ともなく言われると、手のひらで転がされた気分である。
いくら子供じみた遊びとは言え、それなりに夜長の行動を予測し、城の造りからも最短経路で可能性を潰し、且つすれ違う者にも注意していた。
それなのに夜長が早々に部屋に戻っているとは思わなかったのだ。
それを夜長は「基本でしょうが」という口ぶりで言う。
「……定石?」
「はい。ここまで戻るのが一番大変でしたが、信玄様が反対方向へ引き付けてくださったので何とか戻れました。途中で針子仲間に羽織りを借りまして、どうやらすれ違わずに済みました」
「……夜長」
「はい?」
「次の戦では参謀に雇って遣る」
「もう」
夜長が苦笑して謙信の胸に身体を預けるのが心地良いが、佐助にしろ夜長にしろ発想がなかなかに奇抜で虚を突かれる。
冗談でなく、夜長なら兵法をどう取るか興味が湧いた。
しかし今は勝負の話が終わっていない。
「俺の負けだ。まさか城内で負けるとは思わなかったぞ」
「はい、頑張ってよかったです。けれど、謙信様のお時間を私との戯れにいただけたのが一番嬉しかったです」
可愛い事を言う夜長を抱き寄せて「俺も楽しかったぞ」と答えた。
「それで、お前の望みを聞く約束だったな。何でも言ってみろ」
「えーと、そうですね……」
「なんだ?考えていなかったのか?」
「実は……何も」
「では何故賭け事にした?」
意図が分からず、身体を離して見つめある。
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