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【イケメン戦国】雑記こもごも—短編集―

第1章 かくれんぼ(謙信)


「……あい、分かった」
笑いを嚙み締めながら羽織を差し出す信玄の手からもぎ取る。
「悪かったな。お前の寵姫の肌を借りてしまって」
声を立てて笑う信玄に謙信は睨みつけてから踵を返した。
「全くだ!!」
荒い足音を立てて出て行く謙信を信玄は目を細めて見送った。

最初は勝つことに躍起になり、夜長の逃走経路を着々と攻略していた謙信だが、一刻の鐘が鳴った時には悔しいながらも負けを認めていた。
しかし、その後のんびりと探して回っても夜長は見つからない。
下女や家臣、勿論信玄と幸村にも尋ねたが行先は知らぬと言い、段々と不安になる。
城の中と言った手前、もしかして敷地内と解釈して庭に出たのかとも考えたが、すぐに「城内」と限定したことを思い出す。
そろそろ本格的に焦ってくるという時に、佐助が現れた。
最初に問い詰めた部下である。

「謙信様」
「佐助!勝負はついた。なのに夜長が出てこない。お前、見かけなかったか?」
隠し事は許さんという勢いで問われ、佐助は変わらぬ顔であっさりと言う。
「あの、俺は夜長さんが心配しているとお伝えしに来たのですが」
「なんだと?」
「謙信様がちっとも来ないから心配だと」
「心配しているのは俺の方だ!心配だと言うなら何故出てこんのだ!」
「えっと……それは、出ようがないと言いますか。既に出ていると申しますか」
「まどろっこしい事を言うな!」
凄む謙信に佐助がため息をつく。
「落ち着いてくださいって。夜長さんなら部屋にいますよ。とっくに戻って、鐘が鳴っても謙信様が戻らないからと心配していました」
「なんだと……?」
「あー……、ルール……規約をもっと決めておくべきでしたね。時間が過ぎたらどこかで落ち合うとか」
「確かにそうだが」
「とにかく、夜長さんは謙信様が時刻になれば部屋に戻ると思っていたみたいなので、早く戻ってください」

「夜長」
「謙信様!どこまで行ってたんですか?」
戸口で脱力しそうになる謙信に夜長が駆け寄ってくる。
「それに羽織まで。わざわざ持ってきてくださったんですか?」
夜長の心配そうな、悪そうな顔を一瞬恨めしく思うが、すぐにおかしくなる。
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