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【イケメン戦国】雑記こもごも—短編集―

第1章 かくれんぼ(謙信)


謙信は自分の勝ちを確信して襖を開ける。
しかし……。

押し入れを開けると信玄がにやりと笑った。
のんびりと座布団を背にあてがい、気楽に休んでいたようだ。

「悪かったな。お前の極上の微笑みを受け止めるのが俺で。なんならこちらに来るか?天女の代わりは務まらんが、天女の為なら少しくらいの間お前の胸に抱かれてやっても良いぞ?」
見つけたと思った矢先に信玄の毒のある揶揄に遭い、謙信が渾身の睨みを利かせる。
「戯言も程々にしろ。何故貴様が夜長の羽織を持っている!」
屈辱に怒る謙信に信玄は「まぁまぁ」と呑気だ。
「そう怒るな。夜長に命じられて役目を果たしただけだ」
「なに?」
「お前、どうせこの香をたどって行き当たったんだろう?夜長は俺にこの羽織を預けて別行動だ」
面白がる信玄に謙信は抜刀の衝動を理性でねじ伏せる。
「「出来るだけ癖のあるにおいがする場所に隠れてくれ」だとさ。つくづく面白いな。俺が味方するのを端から勘定に入れているのがしたたかというか、光栄というべきか」
やや苦笑して言うが、ふと夜長から預かった羽織に目を落として首を傾げる。
「……しかしこの香、ありそうでない香だが、よい香りだ。何の香木か分からず考えていたが分からなかった。女が使う香なら大体分かるつもりでいたんだがな。どんな調合か聞いてみたい。心地の良い香りだ。植物のように静謐で、且つ温もりを感じる癖になる香りだ」
つらつら話す信玄に謙信が冷え切った表情で手を差し出す。
「……羽織を寄越せ」
「ん?こんな物を持っていては探し回るのに邪魔だろう?無粋なことはせん。あとで夜長に返しておいてやるから探しに行けば良い。俺が引き受けた役はここまでだからな」
からりと気持ちよく言うが、謙信は一切の譲歩もする気が無い様子で引かない。
「それは良い。手段は互いに選ばぬという約束だ」
「ほう」
「だから貴様は黙って羽織を寄越せ」
静かに言い張る謙信に信玄も何かを嗅ぎつける。
「……こだわるな?」
怪しんだ信玄が羽織を片手に持ち、それを後ろ手に押し入れから出てくる。
「俺が夜長の羽織を預かるのは何かまずいのか?何も後ろめたい事などないぞ?」
「当然だ」
あっさり言う顔に表情らしい表情はない。
しかし長い付き合いなだけあり、その目を見れば分かる。
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