第6章 悩み悩まし(家康)
「だから、分かるように説明してって言ってるの。まずは俺に頼って。俺をあてにして。夜長だってそのつもりで来たんでしょ」
辛抱強く聞き返す家康に夜長も頭を巡らせる。
「……うん、そうだよね。家康にも関係ある事だし」
「え?俺?」
唐突に自分の名前を出され、何か気の利かない点があったかなと考える。
しかし夜長は咎めるという風でもなく、思案気なままだ。
「だって、……えっと、何て言うんだっけ」
夜長は記憶をたどる。
そして「初潮」「月経」という言葉が思い浮かんだ。
「そう!月経!毎月くる排卵のこと!」
ようやく言葉が思い付き、晴れやかに笑う夜長に、今度は家康が絶句した。
普通、そういう事は女性同士の秘め事で、男の立ち入る領分ではない。
出産だって僧侶を呼んで読経するなり祈祷師を呼んで拝ませるくらいしか男はできない。出産の場には産婆がつきっきりになり、男子禁制。
そこで何が行われているかなど男は知らずにいる。
なのに、夜長はひどくあっさりと口に出して言い、そのうえ佐助に相談しようとしていたという。
ありえない。
「……それ、佐助に相談する気だったの?」
じろりと睨まれてはっとする。
「それは、今の通り、伝えるのが難しいから……」
慌てる夜長に家康の不機嫌は募る。
「月の物に関してなら漢方でも充分研究されてる。今まで興味ないから考えた事なかったけど。でも夜長の身体の事ならちゃんと知っておきたい。ただ、それを他の男に相談するって、あまりにどうかと思うんだけど」
家康の言い分に夜長も理解はあるらしい。
自分の言い分を伝えようと必死だ。
「だから、家康に話に来たの。でも、「生理」っていう言葉が通じないかもって思ったら戸惑っちゃって」
「……ちょくちょく分からない言葉はあるけど、説明してくれれば分かる。体調が辛いなら医師に相談する事だって考える。でも、そういう……憚らなさすぎるのは許せない」
不機嫌な家康の表情に夜長も自分の非を認めて、「うん」と小さく言う。
「ごめん、恥じらうべきだったよね。でも、私の感覚だと恥ずかしい事じゃないし、パートナー……あ、恋人とか旦那さんね。そういう相手と共有する情報だと思ってたから」
困り顔の夜長に家康は溜め息をついた。