第6章 悩み悩まし(家康)
「ちがうの!ごめん、もう我慢出来なくて家康に頼るしかないって思ってたんだけど、いざ話そうと思うとどう言えばいいのかなって」
首を振って悪がる夜長に家康はまだ動揺が収まらない。
夜長が「我慢できない」などと言うのは珍しいし、確かに困ったりもどかしそうな苛立った顔になったりと、くるくる忙しい。
「遠慮とかしないで良いって言ってるでしょ。別にどんな言い方でも良いから言ってくれなきゃ分からない」
真剣に尋ねると、夜長もうなずく。
「あのね、生理痛がしんどいから鎮痛剤とか解熱剤が欲しいっていうのと、生理の後の冷えが辛いから冷え性の薬がほしいなっていう……相談なんだけど」
一呼吸して打ち明けた夜長の言葉に、家康も眉をひそめる。
「……冷え性は分かるけど、「せいりつう」って何?深刻なの?」
夜長は「そっか、どう言えば良いんだろう」と愛らしく首を傾げるが、家康はそれどころではない。
鎮痛剤と解熱剤が欲しいなど、怪我か深刻な内臓の病か、嫌な考えしか浮かばない。
「佐助君に聞けばよかったな……」
何やら撤退しそうな雰囲気を感じ取り、思わず両腕を掴んだ。
「どうして俺に言えないの?佐助なら分かる事?」
自分の嫉妬深さは自覚している。
自分の独占欲の強さに自分でも呆れるくらいだ。
夜長が五百年後から来たという素性を理解している為、同じ境遇の佐助を頼るのは理性では分かる。
佐助も悪い奴ではない。
むしろ誠実で、落ち着きがあって理知的な面は好ましい。
あの暴君、上杉謙信の下でせっせと忠義を尽くしている様は充分に評価している。
けれど、他の男を頼るのはどうしても我慢が出来ない。
「佐助君なら上手い言い回しを教えてくれるかなって。それに的確な薬を知っているかもしれないし」
夜長は夜長で考える。
佐助は四年長くこの世界にいて、しかも元々が理系の院生である。
専門外とは言っても自分よりは薬学の知識もあるだろうし、薬でなくとも何か適格なアドバイスをくれるかもしれない。
何より、未来人仲間として親しく思う佐助が相手なら、女性ならではの問題も打ち明けやすい。
少なくともこの乱世の感覚よりは気楽に相談できる。