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【イケメン戦国】雑記こもごも—短編集―

第1章 かくれんぼ(謙信)


「えっと、……取り敢えず場所を変える事にしますので、お二人は少しでも雑談などで引き留めていただけますか?」
夜長の申し出に信玄が「おや」という顔をする。
「助言はいらんのか?」
「頂きたいところですが、信玄様はともかく、幸村は謙信様に刀を向けられたら困ってしまうでしょう?」
苦笑して幸村を見ると、幸村も困った顔で頭を掻いている。
「そりゃ、味方をしてやりたい気持ちはあるが、俺では引き留められる気がしないというのが正直なところだな」
申し訳なさそうに言う幸村に信玄が「情けないぞー」と苦笑する。
「まぁ、素通りはしないだろうからいないよりましだ」
信玄の軽口に幸村も「相手が悪すぎるんです!」と反論する。
「だから、少しでもおしゃべりをして謙信様を引き留めてくれたら助かるの」
「そのくらいならまぁ……」
「ありがとう」
綻ぶ花の様な微笑みに信玄は目を細め、幸村はむず痒い顔をする。
「そうだ夜長」
「はい?」
出て行こうとした夜長を信玄が呼び止める。
「君の着物、香が染み込んでいてすぐに分かるぞ。気を付けろ。何なら脱いでいくか?」
やや艶めいた表情で言う信玄に夜長は素直に「なるほど」と自分の迂闊さに困るだけで、信玄の含みを持たせた言葉をそのままに受け止めている。
「えっと……、あ!」
「ん?」
「信玄様、私の羽織を預かって頂けませんか?それで、出来るだけ謙信様が行かなさそうな場所へ置いておいていただけませんか?」
「……ほう。なかなか考えるな」
夜長の思い付きを察した信玄がにやりと笑うが、幸村には見当もつかない。
「お願い出来ますか?」
「貸しだぞ?」
「はい!美味しい甘味を見つけたのでご案内します!」
「あまりに色気の無い貸しだが、まぁいい」
苦笑する信玄に羽織りを脱いで渡す。
信玄としてはもう少し色めいた返事や恥じらう反応を期待したのだが、夜長は少しも思いつかずにいるようだ。

夜長は襖に耳をあてて外の様子をうかがった。
謙信が居れば多少ざわめくだろうが、静かな生活音しかしない。
「大丈夫そうです」
「そうだな。空気が変わっておらん」
信玄と夜長はそっと襖を開け、左右を確かめてから二手に別れた。
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