第5章 患い煩い(家康)
「……うん。でも、大丈夫。それに、早く起きれたからいつもより少し家康とゆっくりできるから」
「朝から可愛い事言うから困る」
家康は目を細めて夜長を引き寄せ、触れるだけの口づけをした。
やっぱり何かが違うと夜長は不安になる。
言葉はいつも通りだけど、触れ方にぎこちなさがある。
上の空でいると、家康が髪を指で梳きながら見つめていた。
「何か気になってる顔してる」
「えっと……、家康、仕事は大変?」
夜長の質問に家康は表情を変えないまま「別に」と言う。
「少し立て込んだけど、忙しいって程じゃない。あんたこそ無理しちゃ駄目だよ。いくら頑丈なおてんばでも心配」
声音が優しい。
夜長はなんとか笑顔を作って「うん。ありがとう」と答えるしかなかった。
「ねぇ、家康」
夜、先に布団に入って本を広げていた家康に夜長は思い切って尋ねる。
見上げる家康は普段と同じ表情をしている。
けれど、やはり違和感がある。
疲弊した様な、全体的に気怠い感じがするのだ。
「なに?寝るなら早くおいでよ」
本を伏せて言う。
「お願い、質問に正直に答えて」
「は?」
「お願い」
夜長の真剣な顔に家康は怪訝な顔で「わかった」と言う。
「というか、俺、別に噓ついてないと思うんだけど。最近は特に」
「それって少しは噓もついてるって言ってる感じがする」
「俺の口ぶりには馴れてるでしょ。ちゃんと答えるから言いなよ」
やや面倒そうに身体を起こして胡坐をかく。
「家康、身体、どこか悪いの?」
もっと言葉を選ぶつもりだったが、どうしても率直に尋ねてしまう。
もし身体に悪い事があるのなら教えて欲しい。
それにちゃんと休んでほしい。
何より、頼ってほしい。
けれど、家康は夜長の質問に一瞬目を瞠り、次に思い切り不機嫌な顔をしてしまう。
「あんたさ、何をどう勘違いしてるの?いたって健康なつもりなんだけど、悪そうに見える?」
声の調子や表情からも、普段と同じだと思える。
けれど、だったら益々分からない。