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【イケメン戦国】雑記こもごも—短編集―

第4章 虎でも猫でも(謙信)


会話の切れ目を待って夜長が声を掛けた。
「佐助君、せっかくだからお茶を一杯どうかな?謙信様、構いませんか?謙信様も一息入れてください。すぐに用意しますから」
夜長の言葉に謙信はやや押された感はあるが、特に異論は無い為、軽く応じた。

「……構わんが。佐助、そう言う事だ。一息入れていけ」
謙信は自分の机に向き直り、佐助から受け取った書状を広げたまま何かを考えている。
お茶の用意が整うまで会話に加わる気はないらしい。
「お気遣いありがとうございます。……ところで、夜長さんは大掃除でも?この時期に」
夜長が用意して勧めてくれた座布団に腰を下ろして、改めて座敷に広げられた着物や反物、巾着や足袋、それに開いたままの裁縫箱を見渡して問う。
「違うの、夏物をしまおうと思って。衣替えの仕分けをしているの」
夜長は広げ過ぎた着物を改めて眺め、散らかし過ぎたと少し恥ずかしくなる。
「夜長さんは着る物に拘りがあるから手入れも丁寧なんだろうね」
感心する佐助に夜長は小さく笑った。
「でも、趣味みたいなものだから。」
「良い趣味だよ。……それは?」
四角い籠にたくさん入った、小さな匂い袋のような物を指して尋ねる。
白い小さな袋で、それを着物に挟んでいるのだ。
「これはショウノウ。防虫剤?かな?」
「なるほど」
佐助は少し黙り、ぼそりと「タンスにゴン」とつぶやく。
夜長は思わず吹き出す。
さすがに集中を切らされた謙信は二人のやり取りが理解出来ず、呆れてため息をついた。
たまに二人がたったの一言で笑う、暗号のような言葉がさっぱり分からず、最初は説明させていたがもはや理解するのを諦めている。

家臣を怒鳴りつけた時に傍にいた夜長がその剣幕に驚くと、「波平だと思えば大丈夫。いつもの事だから」と小声で言えば夜長は緊張した顔を一瞬で緩めて笑いを嚙み締めて肩を震わせ、長持を運び出すよう言いつけた際に「ヤマトでーす」と間の抜けた声で佐助が現れた時にも夜長が声を上げて笑ったが、どれも謙信には理解が出来ない。
謙信の物を作ったついでにと手拭を渡した際には、「でも、お高いんでしょ?」という佐助の嫌味の様な返事に腹を捩って笑う夜長に心底理解に苦しんだ。
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