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【イケメン戦国】雑記こもごも—短編集―

第4章 虎でも猫でも(謙信)


謙信の部屋で着物の整理をする夜長の傍で、謙信は書状や報告書の整理をしつつ、文の返事を書いていた。

城内も落ち着いた様子で、城下も静かに賑わっている。
長閑な陽射しが部屋をやわらかな明るさで包む。
しばらく使わない夏の着物や小物を整理しながら、ほつれや汚れが無いかを丁寧に確認する作業は夜長にとって楽しい片付けである。
時折何気ない会話を出来るのも嬉しく、謙信も機嫌が良さそうだ。

「謙信様」
音も無く戸口で佐助の声がする。
「佐助か」
「はい。調査を仰せつかった川岸の地図をお持ちしました」
「入れ」
「失礼します」
佐助が入ってきても謙信は背を向けたままで筆を進めている。
「佐助君、お疲れ様」
夜長が声をかけると佐助は微笑んで「ありがとう」と答える。
謙信はきりのいい所まで書いてから筆を置き、袴の裾を小気味の良い音を立てて払い身体の向きを変え、佐助と向き合った。
「どうだった?」
佐助も謙信と向き合うと仕事の顔になり、表情がすっと引き締まる。
「大きな変化はありませんでしたが、流れ者が目につきました。川沿いの地図です」
書状を差し出すと謙信は無言で受け取り、手早く広げる。
「……確かに大きな動きは無いが、川の氾濫には今後も注意しておかねばな」
「はい、天候も記録してありますので合わせて気をつけておきます」
「ああ。それに、流れ者か?」
やや声に気怠さが増す。
佐助も丁寧に答える。
「はい。浪人も居れば怪しげな旅人もいます。服装や言葉もまばらなので特定のどこからという様子ではないようで、まだまとまってはいませんが。単純に数が多いのが気になりました」
「確かに、素性の怪しい流れ者が増えると町が荒れる。手荒な者には容赦せず取り締まるように言い置け。まだ問題は上がっていないか?」
思案気な顔のまま問う。
「今の所、騒ぎらしい騒ぎの報告は上がってきていません」
「そうか」

短い会話のやり取りだが、それだけに言葉数が少なくても足りている信頼関係が伺える。
「ご苦労。少し考える。お前も仕事に戻っていいぞ」
「はい」
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