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【イケメン戦国】雑記こもごも—短編集―

第3章 名月や(謙信)


「……若い芽は摘んでおけと言う啓示か」
謙信の笑みを含みつつも不穏な声に幸村が表情を引き締める。
「いえいえ!いえいえいえ!!誠心誠意お仕えしたのが評価されたのでしょう。餅や団子に名を残せなくても俺は十分です」
「幸、見え透いているぞ」
信玄も不敵な笑顔で言う。
謙信と信玄の二人に言われると幸村は顔が引きつるのを隠せない。
「随分と扱いが違うものだ」
不穏な空気に夜長は焦り、「でも、知名度では断然信玄餅ですから!」と言い、佐助は「でも謙信様の人気もよく考えれば五百年後も熱いよね」と話す。

「歴史に名を残したいと思っていたが、二人の話を聞くと少し悩ましいな。敵味方なく教えてやりたいものだ。名物は自分で作っておいた方が良いと」
しみじみと言う信玄に謙信は「死んだ後の事などどうせあてにならん」と言い捨てる。

謙信はかなりの酒を飲み干し、酔いは回らずとも心地の良く身体が緩むのを感じた。
そしてふと手にやわらかい温もりを感じて見やると夜長が笑ってそっと指を絡めていた。

「名月ですね」
「……そうだな」
月を愛でる事に大した感慨はないが、季節の折り目節目を大事にしたいという夜長が楽しげであれば謙信も満足である。
些末な雑談も口で言う程には気に留めてもいない為、信玄や幸村の存在も馴れたもので気が楽な面子である。

何やら新しい戦術を検討する佐助と幸村に、「酒の席でまでせわしないな」と言いながらも盃を片手に話を聞く信玄。
ひと時の安らぐ宴だが、どんなひと時も夜長と重ねてゆく時間は愛おしく、月日を大切に思える。

謙信は「お前も飲め」と、夜長の盃に酌をしてやり微笑み合った。
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