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【イケメン戦国】雑記こもごも—短編集―

第3章 名月や(謙信)


「いえいえ、あの、これは、五百年後の話です!信玄様の故郷の名物になっているんです!」
夜長が急いで説明する。
「俺も食べた事が無かったから合っているかわからないけれどね。こういう小さな包みに入っていて、きな粉と黒蜜をかけて食べる有名な菓子なんですよ。夜長さんが「こんな事になるなら信玄餅を食べておけばよかった」と以前言っていて、俺も同感だったので用意してみました」

「つまりなんだ、俺の故郷では後世この菓子が「信玄餅」として売られているのか?」
信玄が不満そうに言う。
「ものすごく有名なんですよ!地元では詰め放題で売る日に長蛇の列ができると聞いたことがあります!」
フォローする夜長に幸村が更に笑い転げる。
「む……無茶苦茶……っ!信玄様の信玄餅が詰め放題って!」
「……信玄、貴様が五百年後にも餅という形で民衆に愛されているとは羨ましい限りだ」
謙信も笑みを浮かべて皮肉を言う。
「俺を安売りし過ぎだろう」
信玄は不満を隠せないでいる。

「私も食べてみたかったんです。皆さんもいただきましょう。佐助君、ちょっと感動のひと時だったね」
「うん。信玄様が信玄餅を食べる姿をこうして見られるなんて感慨深い。用意した甲斐があったよ」
佐助は本気で感動しているが、幸村はますます笑い涙さえ浮かべている。

「謙信様もどうぞ。せっかくなので一つだけでも」
包みを差し出すと謙信は盃を置き、素直に受け取った。
夜長がきな粉と黒蜜を掛けてやり、楊枝を差し出す。
謙信は楊枝を取り、一つ餅を口に入れた。
「……なるほど。生地が甘くない分丁度いいな。信玄餅は」
嫌味は忘れていないが、甘味に対して珍しくまともに感想を言い、二つ目を食べる。

「それで、謙信のは何かないのか?」
まだ不服そうだが、元より大らかな性格である。
特に棘のある声でもなく酒を飲みながら信玄が問う。
「そうですね。佐助君、何か知っている?」
思いつかず、佐助に意見を求める。
戦国の知識に限らず、歴史全般に佐助は知識が広い。
「笹団子」
佐助がポツリと言う。
今度は信玄が噴き出した。
「なんだそれは」
謙信が顔を顰める。
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