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【イケメン戦国】雑記こもごも—短編集―

第3章 名月や(謙信)


夜長の言葉に一瞬場が静まり、途端に信玄が笑いだし、幸村も肩を震わせて笑っている。
「え?おかしな事をいいましたか?」
「……いや、その通りだと思ってな。謙信、どんぶりと一升瓶で飲むか?」
信玄の揶揄いに謙信は鬱陶しいという顔をする。
「いくら酒量が多くとも、無粋な酒器で飲んでは味が落ちる。俺は馬鹿舌ではない」
拗ねたように言う謙信に夜長は感心した目を向ける。
「なんだ?俺が酒の味にうるさいのは知っているだろう?」
軽く睨む謙信に夜長は「そうではなくてですね」と慌てる。
「謙信様は万事に風情より効率や利便性を重視していると思っていたので。けれど、そうですよね。どうせなら美味しく召し上がってください」
徳利を持ち謙信の盃にも酒を注ぐ夜長に謙信は表情を緩める。
「お前が注ぐ酒は一層美味いぞ?」
夜長の酌に盃を傾ける謙信はすっかり不機嫌な様相を失くしている。
憚らない謙信に参りながらも、謙信が良いのなら仕方がないとも思う。
「お身体に障るので量は控えていただきたいのですが、困りますね」
苦笑いする夜長の親密な眼差しに謙信も満足した。

「謙信が女を傍に置くと言った時にも驚いたが、こうも人が変わるとはな。やはり女の力は凄いものだ」
信玄が揶揄う様に言う。
謙信は構わず酒を飲むが、幸村もまだ信じられない謙信の表情の変化についていけないでいる。
「貴様の様にあちこちで軽々しい真似をする男と一緒にするな。そもそも、男が女を求めるのは自然だと言ったのは貴様だろう」
「本当の事だからだ。それなのに伊勢姫を引きずって強情に女を拒んでいたから言ってやったんだ」
謙信は「伊勢姫」の名前で眉を顰め、剣呑な空気に幸村と夜長は身体を強張らせる。
しかし信玄は鷹揚だ。
「夜長の前で昔の話をするな。軽々しく酒の肴にする話でもない」
その通りだと夜長も思うが、信玄は相変わらず余裕のある微笑みを絶やさない。
「そういう過度に反応する所も良くないぞ。本当に昔の終わった話なら、しみじみと語ってもいいだろう?」
「信玄、貴様」
謙信の荒ぶる前触れに夜長が慌てて「謙信様!」と謙信の肩に手を置いて声を掛ける。
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