第5章 サキの術・暗部時代
ちいさな君と過ごした場所が、少しだけ懐かしく思う。
毎回のごとく、かかしとごはんを食べ、お風呂を借りる。
私より大きくなったかかしのTシャツをかり、もうあの頃とは違うんだとリアルに実感する。
そして、眠る時間…
「サキ、そっちで寝て。俺ソファで寝るから」
「ううん、私眠らないから、かかしがベッドで寝て?」
そういうと、私をジッとみて
「そんなことできないでしょ、普通…」
とやっぱりあきれられる。
「眠らないで、かかしを見ていたいから」
そういうと、少しだけ刹那そうな顔で私を見つめる。
「俺が眠ったら…目が覚めたらまた、いないんでしょ?」
「…うん…だって私はかかしの闇を少しだけ一緒に背負いに来てるだけ。その役目が終われば術は消える」
「大人になった俺は…またこうやって悩んでるのかな…」
「ふふっどうかな…」
笑う私を見て、突然体が引き寄せられたかと思うと、私は君の胸の中にいた。
「か、かしっ…苦し‥よ」
私がいつもぎゅっと君を抱きしめたように、今度は私がそう抱きしめられる。
あまりに突然だったからびっくりした。
「サキ、今だけは…あきらめて…」
低くなった大人の声で、君は静かに私に告げる。
君を見上げると、その顔は切なくて、最後の時を感覚だけで味わうような儚さ____
一緒に布団に入り、今度は私がいつも君にしていたように、君を胸にうずめてその綺麗な銀髪をゆっくり、ゆっくりとなでおろす。
「俺…また、サキに会いたいよ…
夢でも、術の中でもいいから…」
「術の中だと、またかかしは辛い思いをしていることになるからね。それは辛いから…でも…いつかどこかで、違った形で会えるといいね」
「うん…そう願うよ…サキ…ありがとう」
「どういたしまして。明日目が覚めたら、またかかしは強くなってるよ」
「そう‥かな‥サキ…離れ…たくな…」
心地よさそうな眠りに落ちた君を見ながら、もうこれが最後の彼にある心の闇であるように強く願った。
「私も…離れたくないよ、かかし…」
もう聞こえないとわかっていても君の最後の言葉に返事を返し、抱きかかえる頭を撫でながらキスを落とした。