第1章 めんどうごと
人間の男の声…?
「ええ、ちょっと足をひねっちゃったみたいで。助けてもらえないかしら」
「なんと!それは大変だ。近くに私が勤めている学園があります。そこの医務室で診てもらいましょう」
どうやら、教職の人間らしい。鏡の中で出会った人間だったからどうしようかと思ったけど、声からして案外まともそうだ。
「ありがとう、それじゃ手を貸し…て……」
「おお、なんと可愛らしいお嬢さんなんでしょうか。できるだけ体に負担がないように運びますね。私、優しいので」
木の影から出てきたのは、仮面をつけ、背中に鳥のはねが大量に生やしてある、高そうなコートを着た男だった。全身真っ黒で、なんか胡散臭そう。寺子屋のけいねを頭に浮かべる。……本当に教師なんだろうか。
と、頭を悩ませていると、ふわふわと体の重力が消えていく感覚に包まれた。
「なっ…!浮い…!」
こいつ、ただの人間じゃない!…ていうか人間なの!?
「ああ、申し遅れました。私、魔法士養成学校タイトレイブンカレッジで学園長をしてます。ディア・クロウリーと申します」
「…博霊霊夢よ」
「おや、珍しい名前ですね。遠い東の方の出自の方なのでしょうか…」
学園長だと名乗った男は私を浮かせたまま歩き出し、私の体もそれに合わせて平行に移動した。さっき男が言っていた魔法士養成学校という言葉、この馴染みのある感覚。間違いない、こいつは魔法使いだ。
「さあ、つきましたよ」
「え…さっきまで森の中だったのに…」
ヒュンッと景色が変わったかと思えば、私たちは、沢山の鏡が並ぶ部屋にいた。空間を移動したのか、時を止めたのか…何も分からないけど、この部屋の鏡たちには見覚えがあった。私をここに落とした鏡だ。
「闇の鏡で移動したんです。怪我をしたレディは、早急に手当てをしないといけませんからね」
「闇の鏡…」
とりあえず、この鏡はこの世界での移動手段らしいことは分かった。私が何をしに来たのかは、怪しまれないように黙っておいた方がいいかも。
廊下を進み、ある引き戸の前で立ち止まる。どうやらここが医務室のようだ。
「…おや?医務員の先生方がいない。困りましたねえ」